平松万由子「高齢者の慢性疼痛と生活への影響」

高齢化が進展するわが国では、現在地域包括ケアシステムの推進を掲げ、「高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができること」を目指していますが、高齢者であるが故の様々な課題があります。その中の一つとして、平成25年国民生活基礎調査における症状別自覚症状において老年期にある対象の有訴率の高い項目として「腰痛・肩こり・手足の関節の痛み」が報告されているように、慢性疼痛を抱えながら生活していると推測される高齢者が多く存在することが挙げられます。老年期は加齢に伴う心身の変調や社会的環境など様々な変化への適応が課題となる時期でもあり、心身の変調によってもたらされる慢性疼痛は、生活の継続を阻害する影響要因となると考えられます。

一方、高齢者に関わる側の問題としては、「高齢者の痛み」に関する認識の通念として、「痛みは加齢におけるごく普通のことである」「患者が痛みを報告しないときには痛みは存在しない」など誤った理解がなされていることが指摘されています1)。高齢者に関わる全ての人々が、高齢者の特徴と慢性疼痛の基礎的な理解を持ち、生活者としての視点を視野に入れ、より良い医療・ケアを目指し関わっていくことが望まれます。

平均寿命が80歳を超えるわが国においては、個々人が望む住み慣れた環境で、その人なりの「健康」な状態(WHOの定義に基づくと、健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない)で老年期を過ごし、人生を完結することを目指したいものです。その健康な生活を阻害する要因の一つとしての慢性疼痛とはどのようなものなのか、それがどのように高齢者の生活に影響を及ぼすのか、今近くにいる高齢者に自分が出来る事は何なのか、今後医療者としての自分が出来る事は何なのか、いつか行く先の自分と重ね合わせ今後私達は自分の体と向き合い何をすべきか、など様々な角度から考えてみて欲しいと思います。

【参考文献】1)イボンヌ・ダーシィ、波多野敬他(監訳):高齢者の痛みケア、名古屋大学出版会、2013.

 

ひらまつ まゆこ

2004年▶三重大学大学院医学系研究科修士課程看護学専攻修了

2015年▶桜美林大学大学院老年学研究科博士後期課程修了

博士(老年学)。看護師。主な研究テーマは、高齢者終末期ケア、認知症ケア、在宅高齢者ケア、災害時要配慮者支援。