船尾 浩貴 「モチベーションの視点から痛みとチーム医療を考える」

モチベーション(動機づけ)とは、人が目的や目標に向かって行動を起こして、それを維持する働きのことをいいます。皆さんにとっても聞き馴染みのある言葉だと思います。モチベーションは、学業や仕事などの社会的役割を発展させたり、適切な療養行動をとるために重要な要素の1つです。しかし、目標がなかなか達成されない状況が生じた場合、モチベーションは低下してしまい、これらの行動をとることは困難となります。

慢性疼痛を抱える患者の多くは、「痛みをなくす」という目標に向かって、治療を受けるために医療機関を定期受診し、普段の生活の中では医療者の指導に従って内服管理や食事、運動などのセルフケアを行っています。しかし、慢性疼痛は身体面、精神面、社会面などが複雑に絡みあって生じていることから、「痛みをなくす」という目標はなかなか達成されません。さらに患者は、治療期間中も疼痛が持続している状況の中で、「何をしても無駄だ」と無力感を経験することがあるため、モチベーションは低下してしまいます。

このような患者に対して、看護職は、生活の質(quality of life, QOL)の向上を目指した支援を行う役割を担っています。そのためには、痛みを抱えながら日常生活を送る患者にとっての「生活上の困りごと」1つ1つに焦点を当て、それらを解決するための目標設定を患者とともに行い、目標達成のための行動をサポートすることが重要となります。患者が目標の達成を実感することは、無力感を経験することなく療養行動を継続できることにつながると考えます。看護職は、このような支援を通して、患者のモチベーションの向上を目指します。

さて、チーム医療においてもモチベーションは重要な要素であるといえます。これまでの研究から、患者・家族の積極性と目標設定、そして医療者のモチベーションと役割意識がチーム医療に影響することが指摘されています。前者はまさに、慢性疼痛を抱える患者やその家族のモチベーションに関連するものであるといえます。後者のうち医療者のモチベーションについては、例えば慢性疼痛のように症状がなかなか緩和しない状況に向き合う中で、医療者も無力感を経験し、モチベーションが低下する可能性が考えられます。役割意識については、多職種が関わるチーム医療の中で自身の役割は何かを意識することであると考えられますが、自身は何をすべきかが明確に意識できていない場合には、チーム医療により提供されるケアが不十分となってしまう可能性が考えられます。

これら医療者における課題を解決するためには、まずは複雑な病態と様々な治療法についての知識を獲得して理解すること、そして、チーム医療において自身のみならず他専門職の役割を理解することだと思います。このコースで学ぶ皆さんには、ぜひこれらのことを意識して学びを深めてもらいたいと思います。

 

ふなお ひろき

2013年▶三重大学医学部看護学科卒業、看護師、保健師
2017年▶三重大学医学部医学・看護学教育センター 助教
2018年▶三重大学大学院医学系研究科看護学専攻博士前期課程修了
2019年▶三重大学大学院医学系研究科看護学専攻成人看護学分野 助教