鈴木 聡「鍼灸の鎮痛メカニズムを考え、多職種で応用する」

 鍼灸は二千年以上前から東アジアを中心に行われてきた伝統医療で、現在は相補代替医療として世界中で行われています。これは非常に細い鍼と心地よい温かさの灸を用いて、人体の皮膚表面(ツボ)から機械刺激と温熱刺激を与え、鎮痛、筋緊張緩和、血行改善、自律神経調整などさまざまな効果的反応をもたらすことで、疾病を予防または治療します。

特に鎮痛に対して鍼灸は効果を発揮しています。鍼灸治療を受診する患者の約75%が痛み、しびれ、凝りを主訴としているという調査結果もあり、実際に鈴鹿医療科学大学附属鍼灸治療センターや三重大学医学部附属病院麻酔科鍼灸外来に来院される患者の多くが痛みを主訴としています。

では鍼灸がなぜ痛みに効くのか。これまで多くの研究がされてきましたが、そのきっかけになったのが1970代初めに報道された中国の鍼麻酔手術です。これが世界中に報道されると、どうして鍼をしているだけで開頭や開胸手術が患者覚醒下で行えるのかと、世界各地でメカニズム解明の研究が進められました。その結果、鍼の刺激が脳へ伝わり脳内で内因性鎮痛物質(モルヒネ様物質)を産生し痛みをとめていることが明らかとなりました。その後も鍼灸による下行性疼痛抑制系の賦活やアデノシン産生による鎮痛作用などが明らかとなっています。今では鍼麻酔手術はほとんど行われなくなりましたが、鍼鎮痛として広く臨床に応用されています。

多くの患者さんが慢性疼痛に悩んでいます。皆さんは各職種の立場から専門性を踏まえ痛みや悩みの除去に取り組むことでしょう。鍼灸師と連携しその取り組みがさらに効果的なものになるでしょう。また、皆さんが鍼や灸の痛みセルフケアを学ぶことで自職種の役割をさらに広めることができるでしょう。この機会に鍼灸の鎮痛メカニズムやセルフケアを修得して下さい。

 

すずき さとし

1997年▶明治国際医療大学(旧称 明治鍼灸大学)鍼灸学部鍼灸学科卒業

2001年▶中国中医科学院(旧称 中国中医研究院)研究生部碩士研究生鍼灸推拿専攻卒業

2005年▶北京中医薬大学研究生部博士研究生鍼灸推拿専攻卒業

2005年▶鈴鹿医療科学大学鍼灸学部鍼灸学科 助手

2007年▶鈴鹿医療科学大学鍼灸学部鍼灸学科 助教

2010年▶鈴鹿医療科学大学鍼灸学部鍼灸学科 准教授

2010年▶三重大学医学部附属病院麻酔科鍼灸外来診療等従事者

2015年▶鈴鹿医療科学大学保健衛生学部鍼灸学科 准教授