山口 太美雄「慢性疼痛医療者育成プログラム―臨床検査と食生活指導の重要性―」

 

 鈴鹿医療科学大学では、三重大学と合同で慢性疼痛医療者育成プログラムに参画し、臨床検査学専攻と管理栄養学専攻を擁する医療栄養学科においては、慢性疼痛の診断・治療・ケアに関わることのできるスタッフの養成を目指しています。

言うまでもなく慢性疼痛は不快で忍耐を強いられるものであり、一刻も早い原因究明と治療が求められます。その原因は、リウマチなどの様々な炎症・変形性疾患や悪性腫瘍の増殖に伴う圧迫や組織の傷害、脊髄損傷や糖尿病に伴う中枢神経や末梢神経の障害、慢性腎臓病における片頭痛など、実に多岐にわたります。したがって原疾患の正確な診断には、生化学、血液学、免疫学、微生物学、病理組織学的検査など検体を用いる項目に加え、心電図、呼吸機能検査、脳波、筋電図などの生理学的検査が欠かせません。それらの実施には、高度な知識と専門性を要求されるため、医療現場において臨床検査技師の果たす役割は極めて重要です。

一方、疼痛の原因が確定した後は、医師による治療は元より、看護、投薬、機能回復に加え、食生活の指導が不可欠です。全身の栄養状態は、臨床検査値のみならず患者の体調や心理状態に大きな影響を与えるからです。近年、慢性疼痛を伴う活動低下によるフレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドローム等の増加が危惧されるようになり、筋肉や骨の代謝や褥瘡防止に必要不可欠な栄養素摂取の重要性が注目されています。現在では、多くの病院で栄養サポートチーム(NST)が編成され、そこでは慢性疾患患者のQOL向上に管理栄養士が重要な役割を担い、大きな成果を上げています。

当学科の特徴は、食生活と栄養の重要性を知る臨床検査技師と、検査に精通する管理栄養士の養成を目指していることです。慢性疼痛医療者育成プログラムでは、様々な分野の専門家による多角的な視点の講義に加え、実際の医療現場を想定した模擬診断で各人がロール・プレイング(役割演技)に参画するワークショップを実施しています。本学科の多くの学生さん達からも好評を博しており、2020年2月の合同シンポジウムでは成果や感想を発表してもらいました。この機会に、他学科や三重大学の方々との交流を深め、チーム医療の一員として慢性疼痛緩和に貢献したいと決意して頂ければ、とても嬉しく思います。

やまぐち たみお

藤田保健衛生大学衛生学部卒業。同大(現 藤田医科大学)大学院医学研究科より博士号(医学)授与。製薬系企業研究員、カナダゲルフ大学栄養科学研究員、アメリカ合衆国カンザス大学医学部ポストドクトラルフェロー、カンザス大学医学部腎臓部門研究助教授、カナダマニトバ大学人類栄養科学上席研究員、カナダ農食物・医学保健学研究センター(CCARM)上席研究員等を経て、鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科・大学院医療科学研究科(兼担) 教授。研究テーマは、腎臓病発症メカニズムの生化学・分子生物学的解明と、薬剤・食餌・再生医療による腎疾患進行抑制とQOL向上の試み。