笠井裕一「疼痛を有する患者の心理・性格特性」

私は、現在までに約10000人の方に対してモーズレイ性格テストを行ってきました。その結果から、疼痛を有する患者の心理・性格特性などがわかっています。

モーズレイ性格テストは、1958年にJensenが発表したものを日本語訳したもので、80項目の質問からなり、内向外向性、神経症的傾向、虚偽発見の3つの尺度を判定できる質問紙法性格テストです。その評価方法は、内向外向性の評価点(48点満点)が高いほど外向的で、神経症的傾向の評価点(48点満点)が高いほど神経症的傾向が高く、虚偽発見に関する評価点(40点満点)が高いほど虚偽回答の傾向(嘘つき度)が高いと判定します。また、神経症的傾向の評価点が38点以上、あるいは虚偽発見に関する評価点が32点以上の人を性格偏倚者と定義します。

まず、疼痛を有する患者は、内向的で、神経症的傾向を有していることが多いという結果を得ています。このような神経症的傾向で内向的という性格の患者では、疼痛に対して破局的思考をしたり、受け身的に対処したりするため、痛みが慢性化しやすくなると考えられます。よって、このような患者には、破局的な思考に至らないように痛みの対処法をしっかりと指導していく必要性があります。

また、腰痛や肩痛の患者の中には、性格偏奇者が多く存在していることがわかっています。そして、それらの運動器疾患を有する患者では、なかなか症状が改善しないのでQOL障害が持続してしまい、そこに職場や家庭でのストレスが慢性的に加わると、極端な心理的変化を生じる人が出現してしまうのではないか、と推測されます。

本コースでは、まず皆様に、心理的な負荷や性格特性が痛みの悪化や慢性化に対して大きく影響していることを知っていただき、さらに患者との良好なコミュニケーションのとり方や薬物療法・瞑想療法・リハビリなどの実際についても学んでいただきたいと思っています。

 

かさい ゆういち

昭和61年▶三重大学医学部卒業

平成2年▶三重大学大学院医学研究科修了(医学博士)

平成4年▶三重大学医学部整形外科学教室 助手

平成6年~平成7年▶アメリカ合衆国 ミネソタ大学留学

平成15年▶三重大学医学部整形外科学教室 講師

平成21年▶三重大学医学部附属病院 病院教授

平成22年▶三重大学大学院医学系研究科脊椎外科・医用工学 教授

平成25年▶三重大学附属病院 国際医療支援センター長(兼任)

平成28年▶ミャンマー・ヤンゴン第一医科大学 栄誉教授