奥田真弘「緩和医療と薬剤師」

 個人的なことだが、昨年暮れに父親が闘病の末、他界した。約5年前に腫瘍が見つかり手術を受け、その後しばらくの間、腫瘍とは縁のない生活を送っていたが、今から約1年前に転移が見つかり、それからはひたすら腫瘍と命との競争であった。腫瘍が骨や皮膚にも浸潤し、死の約3週間前からはオピオイドを投薬されていたが、最後は“子”や“孫”に見守られながら自宅で静かに息を引き取った。オピオイドが使えていなかったら、と想像する余地もないが、ターミナルケアではオピオイドの処方から処置、服薬指導に至るまで、医師、看護師、薬剤師の訪問を受け大変お世話になりありがたく感じた。家族にとっては、肉親の最後を静かに看取れたことを何事にも代えがたく感じるし、本人にとっても住み慣れた自宅で子孫に最後を看取られたことは、本望とまでは言えなくても受け入れられたのではないかと思う。

多職種チーム医療に薬剤師が関わるようになって久しい。以前は、病院薬剤師の評価は調剤室に籠もって調剤をひたすら正確に早くこなすことであったが、約30年前から入院患者を対象とした薬剤管理指導業務が徐々に進み、今から約5年前には薬物療法の質向上と他の医療タッフの労務軽減を目的として、病棟配置された薬剤師による業務自体が診療報酬の評価対象となった。同時に外来緩和ケア管理料が新設され、緩和ケアの経験を有する薬剤師が施設要件に含まれた。さらに2年後には、がん患者指導管理料3が設定され、抗がん剤を使用している患者に対する薬剤師の服薬指導(医療用麻薬等の使い方などの説明を含む)が算定対象となった。診療報酬はある意味で政策誘導であるが、最近の診療報酬改訂ではチーム医療における薬剤師の活動を評価する内容が続いている。薬剤師育成のための学部教育が6年制に移行してから約11年になる。経済情勢が厳しい中、薬剤師育成にかかる教育課程が2年間延長された背景には、医療の質や効率向上に薬剤師を積極的に活用する期待が込められている。

緩和ケアは、「生命を脅かす疾患による問題に直面する患者とその家族に対して、痛みやその他の問題を早期に発見し、的確な評価・処置を行い、苦痛を和らげることでQOLを改善する行為」と定義される。死は人間にとって最大の関心事の一つであるが、誰も逃れることは出来ない。多職種医療チームによる緩和ケアの活動が、人の苦痛を少しでも和らげることに貢献できるなら、何にも代えがたい価値に繋がると切に思う。

 

おくだ まさひろ

昭和62年3月▶京都大学薬学部薬学科卒業、薬剤師、薬学博士

平成11年4月▶米国バンダービルト大学メディカルセンター腎臓部門 リサーチ・フェロー

平成12年7月▶米国エール大学医学部細胞分子生理学部門 ポストドクトラル・フェロー

平成14年4月▶京都大学医学部附属病院薬剤部 講師

平成14年11月▶ 同 助教授・副薬剤部長

平成16年10月▶三重大学医学部附属病院 教授・薬剤部長