大井 一弥「痛みとポリファーマシー」

本邦は急速な少子高齢化が進行し、これまでに経験したことのない超高齢社会の最中にある。高齢者は、加齢と共に老年症候群に加えてさまざまな疾患に罹患しやすくなり、必然的に多くの薬を服用している現状にある。このように、多剤併用によって身体の変調をきたし、受診をすることで服用剤数が増え、さらに薬物有害事象の頻度も増えることを総称してポリファーマシーという。つまりポリファーマシーは、単に服用剤数が多いことだけではなく、薬物有害事象の増加や服薬アドヒアランス低下等、患者の不利益につながる状態を指す。

さて慢性疼痛の患者は、約17,000千人で、その約77%は痛みが和らいでいないとの報告がある。慢性的な痛みのある高齢者は、非ステロイド性抗炎症治療薬(NSAIDs)に頼る傾向があり、貼付剤では、若年成人に比して使用量が全体の約80%にもなる。

痛みを抑える薬で、内服薬も加わるとほとんどの患者で使用経験を有するのがNSAIDsである。NSAIDsは、プロスタグランディン(PG)産生抑制によるブラジキニンによる痛みの感受性を抑制することで鎮痛効果を発揮する。またPGE2は脳下垂体の体温調節中枢に作用して発熱を誘導し、ヒスタミンやブラジキニンによる血管浸透性の亢進作用によって炎症性の浮腫も発現するがNSAIDsは、痛みや発熱共に抑える作用がある。従って、生体内でPGE2やロイコトリエンなどの炎症に関わる物質の濃度が低下しているにも関わらずNSAIDsの長期連用投与は、適正使用とは言い難い。さらに腎機能低下時には、長期使用で薬物有害事象に繋がりやすいことが周知の事実である。

そのため我々は、薬のみで痛みが抑えられないことを理解し、多職種間でポリファーマシーを解消し、医薬品適正使用に向けた取り組みがプロダクトできるように、最近の話題提供と共に議論できる場が増えることを切望する。

 

おおい かずや

【職歴】
三重大学医学部研究助手、社会保険羽津病院薬剤部(現:四日市羽津医療センター)、城西大学薬学部病院薬剤学講座 助教授を経て、2008年~鈴鹿医療科学大学薬学部病態・治療学分野臨床薬理学研究室 教授(2010年~2014年 同薬学科長)、2014年~鈴鹿医療科学大学大学院薬学研究科薬物治療設計・管理学分野 教授兼担
【資格】
博士(薬学)、Infection Control Doctor、日本医療薬学会認定・指導薬剤師、リウマチ登録薬剤師、骨粗鬆症マネージャー
【社会活動】
日本老年薬学会理事、日本老年医学会代議員、日本医療薬学会代議員、日本薬理学会学術評議員、日本腎臓病薬物療法学会評議員、日本老年医学会高齢者医療委員会委員
2017年4月~ 厚生労働省 高齢者医薬品適正使用委員会構成員
2018年3月~ 三重大学医学部附属病院認定臨床研究審査委員会委員
2018年10月~三重県薬剤師会臨床研究倫理審査委員会委員長