三輪高市「“痛み”とは?」

“痛み”は人間には苦痛であり、身体にとってケガや病気の時に発生する余分なものに思われます。しかし、“痛み”は身体へ“危険”に対する警告を与える大事な防御因子なのです。痛みがあることで、身体の不具合や身体に障害を与えるものを避けることが可能になります。もし痛みがなかったらどうなるでしょうか?例えば、炎に近づいても何も感じることがでなくなり、炎に触れている間に身体がどんどん損傷してしまい、大やけどを負ってしまい、最後には死に至ることもあるでしょう。我々人間は痛みを感じることで、危険を回避することができるのです。

しかし、痛いのは辛いですね。“痛み”が過剰に強くなると“痛み”によるストレス自身が身体に害を与えてしまい、死に至らしめることもあります。アレルギー反応とよく似ています。アレルギー反応も本来は外部からの異物を身体から追い出す反応ですが、過剰になると身体に悪影響をもたらします。“痛み”はQuality of Life(QOL)にも影響し、特にがん末期症状やいろいろな慢性的な疼痛などに悩む患者さんやそれに対峙していく医療者にとっては非常に重要な課題です。

過剰な“痛み”を和らげるために、身体の中には“痛み”を和らげる働きがあります。一つ目は内因性のモルヒネ様の物質です。エンドルフィンやエンケファリンなど鎮痛作用を持った物質が痛みの増加と共に遊離され、痛みを和らげます。二つ目は痛みの伝わる神経経路を抑制する神経です。末梢から脊椎を経由して脳に痛みが伝わっていきますが、脳から脊椎に向かって痛みの伝達にブレーキをかける仕組みがあります。脳から下方向に抑制の情報が伝わっていくので、“下向性抑制系”と呼ばれています。この経路にはGABAやセロトニン・ノルアドレナリンなど多くの神経伝達物質や先ほど出てきたモルヒネ様物質も係わっています。

鎮痛薬は、主に麻薬性鎮痛薬(Opioid)と非麻薬性鎮痛薬(NSAIDs)に分けられますが、両者ともに適正な使用を心掛けないと耽溺性や依存性などのリスクが高まることになります。鎮痛補助薬には、抗うつ薬や抗精神病薬などの向精神薬関連のお薬も使用されます。

“痛み”は、身体にとって必要なもの、しかし、過剰な“痛み”は取り除く必要もあります。痛みの仕組みを知り、正しい対処法を学んでいきましょう。


みわ たかいち

日本大学理工学部薬学科卒業後、長崎大学薬学部にて博士号を取得。製薬系企業研究員を経て、精神科病院にて薬剤師として臨床の現場で従事する。その間、精神科薬物療法認定薬剤師、精神科専門薬剤師の資格を取得し、2013年より現職。