湏藤 啓広「整形外科と慢性疼痛」


皆さん、我が国ではどのような症状で悩んでいる人が多いかご存じですか?厚生労働省が平成25年に発表した国民生活基礎調査の概況によると、男性では1位:腰痛、2位:肩こり、3位:鼻づまり・鼻水、4位:せき・たん、5位:関節痛で、女性では1位:肩こり、2位:腰痛、3位:関節痛、4位:体のだるさ、5位:頭痛の順番となっています。男性では1位、2位、5位が、女性では1位、2位、3位、5位が痛みに関連する症状ということになります。そうなんです。我が国には痛みで悩んでいる人がとても多いんです。特に整形外科が扱うことの多い腰痛、肩こり、関節痛は男女とも5位までに入っています。腰痛の原因には椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、骨粗鬆症など様々な疾患が含まれています。肩こりの中には、いわゆる四十肩、五十肩と呼ばれるものが含まれている場合もあるでしょう。関節痛の原因には変形性関節症、関節リウマチなど、こちらも様々な疾患が挙げられます。いずれも慢性的に持続する可能性のある厄介なものです。整形外科は外科という名前がついていますから、手術療法を行う外科系の範疇に入りますが、手術を行わない保存療法による治療も広く行っています。保存療法は手術療法が必要かどうか判断するために行われたり、手術適応がない場合に行われたりします。保存療法には薬物療法、装具療法、理学療法などがありますが、その中でも薬物療法はなくてはならないものであり、とても重要です。数ある薬物療法の中でも、近年、慢性疼痛に対する薬物療法は目覚ましい進歩を遂げています。以前から汎用されている非ステロイド性鎮痛消炎剤(NSAIDs)やアセトアミノフェンに加えて、神経障害性疼痛治療薬や新規オピオイドなどが登場し、それ以外にも鎮痛補助薬、ステロイドなど様々な薬剤が使用されています。NSAIDsの中にも内服薬、湿布、塗り薬、坐薬など様々な剤形があり、病態や症状に合わせて使い分けられています。骨粗鬆症に対する骨吸収抑制剤や骨形成促進剤にも鎮痛効果が認められていますし、関節リウマチに対する生物学的製剤にも鎮痛効果が報告されています。最後に、我が国には腰痛・肩こり・関節痛などの整形外科的疾患で悩んでいる人がとても多いということ、整形外科では痛みが原因で悩んでいる人に対して手術だけでなく薬物療法などの保存療法を駆使して診療していることを強調して筆を置きます。整形外科をお忘れなく!

 

すどう あきひろ

1983年▶三重大学医学部卒業 1987年▶三重大学大学院医学研究科卒業

1988年▶Los Angeles Cedars-Sinai(シーダース・サイナイ)Cancer Center留学

1990年▶三重大学医学部附属病院 講師 1991年▶紀南病院整形外科 医長 1992年▶三重大学医学部 講師

2006年▶三重大学大学院医学系研究科病態修復医学講座運動器外科学 准教授

2009年▶三重大学大学院医学系研究科病態修復医学講座運動器外科学 教授

2012年▶三重大学大学院医学系研究科運動器外科学・腫瘍集学治療学(名称変更)教授

2013年▶三重大学医学部附属病院副病院長(併任)