辻川真弓「痛みのケアを通してチーム医療を学ぶ」

医療は進歩し、今まで治らないとされた病気も治る時代になった。しかし、そのような中でも、日本の人口の20%は慢性の痛みに悩まされているという。

痛みは、様々な苦しみを引き起こす。「痛い」ということ自体が辛いことであるが、痛みのために歩きづらい、食べづらい、眠れないという支障を引き起こす。さらにこういった支障のために、仕事にも行けなくなったり、出かけることも億劫になり、社会的活動が制限されてしまう。その結果、気分が落ちこみ、「何でこんなことに……」と心を病んでしまったり、生きる意欲を失う事態にまで、つながりかねない。

私自身は、がん看護を専門としているが、「がんの痛み」も20年くらい前までは、コントロールが難しく、「がん=死」「がん=痛い」というイメージであった。しかし、最近では「がんの痛みは抑えられる」と誰もが思う時代になった。この背景には医療用麻薬や鎮痛補助薬の適切な使用が普及したことだけでなく、医師、看護師、薬剤師をはじめとする医療従事者が、痛みを抱える患者さんの思いを聴き、チームで共有して、痛みの治療に反映せていった役割は大きい。

このように考えると、慢性疼痛にもこのチームアプローチは有効であるに違いない。痛みは身体的・精神的・社会的・スピリチュアル的な側面をもち、複雑であるからこそ、多職種でいろいろな側面から関わることで、やっと正しい理解と適切な介入ができる。すなわち、医師、看護師、薬剤師といったメンバーだけでなく、理学療法士は、どう動いたら痛みが少ないかを教え、栄養士は、痛みに負荷となる体重コントロールや食事の工夫を教えてくれるだろう。また、鍼灸師が鍼灸治療を施したり、生活の中で使えるリラックス法などを教えてくれれば、患者にとって大きな助けとなるだろう。そして何よりも、この専門職たちが、患者さん中心の共通の目標をもって、チームとして情報を共有し治療やケアに反映させることができれば、患者さんの痛みは和らぐに違いない。

三重大学と鈴鹿医療科学大学では、今年度より慢性疼痛をマネジメントするチームアプローチを学ぶコースを設置した。皆さんには、是非このコースで学び、慢性痛で悩む人の支援ができる医療者になり社会に貢献して欲しい。まだ皆さんは、学部1~2年生だけれど、早い時期から将来の自分を見据えて、多職種チームアプローチの一員になれる自分創り、仲間創りに励んで欲しいと思っている。

 

つじかわ まゆみ

千葉大学看護学部卒業、三重大学大学院医学系研究科修了(看護学修士・医学博士)、看護師・保健師