畠中泰彦「慢性疼痛と理学療法」

 慢性疼痛の理学療法の歴史は古く、紀元前まで遡る。シビレエイを用いた電気治療が行われていたようだが、文字通り命懸けの荒療治だったことだろう。古代ギリシャ時代に医学の礎が築かれたことは有名だが、実はこの時代、温泉が発見されるとその近隣に温泉宿とともに医学校が建てられていたらしい。やはり「この痛みを何とかして欲しい」という患者の切なる願いは地域、時代を超えて普遍的なものらしい。
●医療チームの一員として共通の必須認識
「原因と病態の理解に基づく治療方針決定」
上肢、あるいは下肢切断者に幻肢が見られることがある。多くの患者で義肢使用開始後、徐々に消失する。一方、痛みを伴う幻肢、「幻肢痛」も存在する。鎮痛剤が効きにくく、夜間痛に苦しむ症例も多い。治療として鏡に映った自身の姿を眺めさせると30分程度で就寝できるまで疼痛が軽減する。しかし、直接切断肢を眺めても効果は得られない。この事実は「疼痛の原因が局所にあるとは限らず、病態の機序を正しく理解することが重要」であることを示唆している。これは治療に携わる者全員に求められる知識である。
●初学者へのメッセージ
「実は慢性化させないことが最も重要で、効率的」
慢性疼痛を持つ患者の多くは、それまで受けてきた治療が大なり小なり上手くいかず、諦めや不満を抱えている。大病院では何か画期的な治療を研究していて痛みを解消してくれるといった根拠のない期待を抱いて来院している。期待が外れると新たに失敗体験が加算され、疼痛の原因は初期の器質的なものから中枢での問題に変化する。漫然とした治療を継続するのではなく、定期的な評価、検討、患者へのフィードバックにより患者の機能、能力、満足度を高めることが重要である。

はたなか やすひこ
1985年▶京都大学医療技術短期大学部理学療法学科卒業
1985年▶京都府立医科大学附属病院勤務
1998年▶吉備国際大学保健科学部理学療法学科 助手
1999年▶吉備国際大学保健科学部理学療法学科 講師
2003年▶鈴鹿医療科学大学保健衛生学部理学療法学科 助教授
2006年▶鈴鹿医療科学大学保健衛生学部理学療法学科 准教授
2008年▶立命館大学大学院理工学研究科修了(工学博士)
2009年▶鈴鹿医療科学大学保健衛生学部理学療法学科 教授
2019年▶鈴鹿医療科学大学保健衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻 教授 現職