造血幹細胞

赤血球・白血球・血小板といった造血細胞は、色々な種類の血液細胞に分化する能力(多分化能)と自らと同じ細胞を複製する能力(自己複製能)を有する造血幹細胞に由来します。

近年、造血幹細胞の研究は飛躍的に進み、白血病細胞の多くもこの造血幹細胞が腫瘍化しクローン性に増殖したものであることがわかってきました。

造血システムの一端を明らかにし、血液疾患の病態の解明や血液細胞を用いた細胞治療を推し進めるため、我々の研究室では、これまで、造血因子による造血幹細胞の細胞周期制御、造血幹細胞や単球からの樹状細胞への分化経路、赤血球系細胞の増殖・分化のエピジェネテックな制御(図1)など様々なテーマに関して取り組んできました。

現在は、ヒト造血幹細胞から様々なリンパ球系細胞への分化の調節機構について Notch ligand やストローマ細胞との共培養系を用いて研究しています。

 

図1.HDAC inhibitor FK228 は赤芽球系コロニーの数と大きさを増強する

 

 

一方、造血幹細胞には血液細胞以外の細胞に分化する能力(可塑性)が備わっていることが知られています。我々はこれまで Enhanced green fluorescent protein (EGFP)トランスジェニックマウスという赤血球と体毛以外の全ての細胞が緑色蛍光を発するマウスから分離した造血幹細胞を 1 個だけ移植した骨髄キメラマウスを用いて可塑性に関する研究を行ってきました。

骨髄キメラマウスの解析から、(1)造血細胞特に骨髄系細胞が腎糸球体のメサンギウム細胞に分化しうること、(2)四塩化炭素で傷害を与えると、肝臓や膵臓に単球に由来する星細胞が出現することを発見しました(図2)。

また、がんの微小環境に存在するマクロファージが腫瘍の増殖促進と抑制の両面で重要な働きをしているとの報告がなされており、我々もF、K2骨2髄8キ(+メ) ラマウスを用いた発癌FモK2デ28ル(に+)おいて、造血細胞由来の単球・マクロファージ系細胞ががん進展に果たす役割を研究しています。

 

図2.EGFP 陽性の造血細胞が glial fibrillary acidic protein (GFAP)と oil-red-O 陽性であることから、肝星細胞に分化したことを示す。

 

 

造血幹細胞は多くの可能性を秘めた細胞であり研究の種が尽きません。
一方で、造血幹細胞に対する考え方や研究手技は一朝一夕で身につくものではありません。
先輩から受け継いできた造血幹細胞に関する研究スピリットを次の世代に繋ぐとともに、その成果が少しでも患者さんの診療に活かされるようになればと期待しています。