概要

感染症内科が脚光を浴びています

2019年末に発症した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がまたたく間に世界中に拡大し、人類史上最悪ともいえる医療パンデミックを引き起こしました。突然降って湧いた災禍により、我々の生活様式が一変したように、これまで地味な存在であった感染症内科医が、一気に医療の最前線に立たされたことを実感しています。振り返ってみると、これまでに人類に甚大な影響を与え続けている疾病は感染症に他ならず、今回のCOVID-19大流行は、感染症が必ずしも途上国だけに起こりえる問題ではないことを証明したともいえます。

また、COVID-19の外側を考えても、日進月歩の医療の進歩の影の部分で、宿主が急激に免疫不全化しています。さらに、昨今のAMR(antimicrobial resistance)の問題もあり、感染症診療がさらに複雑化していくものと予測されます。このような中、社会医学として俯瞰的な立場で、また、実地医家としては一つの症例を仰視できる感染症医のニーズが急速に高まっていることを実感しています。

三重大学感染症内科の特徴

当診療科が実際に稼働し始めてから日が浅く、これから特色のある感染症内科を創っていきたいと考えています。三重大学感染症内科は血液内科から派生してきたという歴史を持ちますので、一般感染症に加えて、HIV診療を含めた幅広い免疫不全に関連する感染症を専門分野の一つとしています。
科長の鈴木圭は救命救急・総合集中治療センターの副センター長を兼任しており、10年以上にわたり、救命救急・総合集中治療センターで活動を展開してきました。従って、敗血症性ショックを中心とした重症感染症や、呼吸不全管理の経験が豊富で、救急・集中治療領域の感染症も専門分野の一つです。COVID-19診療においても中心的な役割を果たしており、重症例においては救命救急・総合集中治療センターと、中等症例においては総合診療部と共同して診療を展開して来ました。
2021年11月から新しくメンバーに加わった山口貴則は、感染制御部の助教として院内の感染症制御・抗菌薬適正使用支援、(AST・ICT業務)に従事しています。中央診療部門に人材を派遣することで、院内での幅広い活動展開が可能となっています。
現在は臨床感染症とAST・ICT業務が主軸ですが、将来的には内科診療の延長として、不明熱・不明炎症(FUO・IUO)、社会医学として公衆衛生分野への参画、大学病院ならではの環境を活かした臨床・基礎研究へと活動を展開してきたいと考えています。

(図1:集中治療専門医テキストを改変して使用)

学生さん、研修医のみなさんへ

こんなキャリアを提供できます(感染症内科科長:鈴木圭)

2021年8月に当診療科が独立した部門として新たに立ち上がり、私が初代の診療科長として就任しました。三重県には2021年8月現在、25名の感染症専門医が登録されています。これまでにも感染症専門医育成事業に尽力して参りましたので、三重県は全国的に見て、人口当たりの感染症専門医数は比較的多い方に分類されますが、それでもまだまだ充足にはほど遠い状態にあります。感染症の深い知識は、臨床・基礎を問わず、どの分野に進んでも必ず役に立ちます。感染症そのものを専門にしたいという方はもちろんですが、サブスペシャリティとして感染症を学びたいという方も大歓迎です。専門医を取得した後に元の診療科に戻る、あるいは他施設で感染症内科を立ち上げたいという方は、その意思を尊重します。私は感染症学会の専門医委員会教育部会の委員をしていますので、希望があれば就職先も斡旋します。もちろん、感染症内科の一員として、やりたいことをやっていただいても構いません。最大限配慮したいと思います。私は麻酔科として医師のキャリアをスタートし、そのあと10年一般内科・血液内科をして、10年救急・集中治療をしながら、(今はコロナでなかなか難しいですが)、毎年2回は海外の学会や研修会に参加することを自身に課して実践するなど、私自身がやりたいことをしてきましたので、この点は誰よりもよく理解していますので、ご心配なく

学生さん、後期研修医のみなさんへ(感染症内科科長:鈴木圭)

感染症に興味があれば、是非ご連絡下さい。進路や研修についても最大限配慮します。内科プログラムとして感染症内科専門医を目指す正統進化を遂げてもらっても良いですし、私のように、救急・内科のダブルボードを目指してもらうのも良いでしょう。救急・集中治療領域で感染症は極めて重要な分野ですが、集中治療専門医かつ感染症専門医は本邦では非常に少なく、ここに血液専門医となるとおそらく(ほとんど)前人未踏の領域なのではと思っています。私は、今でも血液内科・救急集中治療を続けながら感染症の面白さを日々感じています。血液、救急・集中治療、感染症の三つ巴の診療をすることは、他の大学病院では普通考えられないスタイルですが、三重大学感染症内科では、これまでの枠組みにとらわれることのないキャリアを提供できる土壌があります。具体的には、感染症内科医をしながら、ドクターヘリに乗ることも、ECMOを導入・管理することも、造血幹細胞移植に関わることも、中央部門として病院の中央で仕事をすることもできます。感染症内科を踏み台に、救急医あるいは集中治療医として医療の最後の砦を守る医師として生きることも、血液内科医として専門性の高い内科の道を進むことも、無限大の組み合わせが可能です。私自身がそのようなスタイルでやってきている前例があるので、実現可能性が高いことは理解していただけると思います。医師のキャリアの一時期だけでも結構です、いいとこ取りで構いません、是非一緒に良い仕事をするのに、力を貸して下さい

学生さん、後期研修医の皆さんへ(感染制御部助教:山口貴則)

感染症診療の知識はどの専門科においても必要とされるものであり、感染症診療に強い医師はどこに行っても重宝されます。我々は自身で患者さんへの診療を行うのはもちろんのこと、AST・ICT業務を通じて、他の科の先生からも、感染症が疑われる症例に対する診断や治療方針の相談を受けアドバイスを行っており、いわゆる”Doctor’s doctor”としての役割も担っています。また感染制御部として職員のワクチン接種や院内感染対策業務などにも携わっており、医療スタッフのみでなく病院職員全体が安心して働ける環境作りの提供にも貢献しています。そんな風に各方面から頼ってもらえるような感染症内科医を一緒に目指してみませんか。
COVID-19の流行によって図らずも感染症内科に対する注目度が一気に上がりましたが、三重県にはまだまだ十分といえる感染症専門医がいませんので、その分活躍ができる場面もとても多いです。感染症のスペシャリストとしての活躍を目指すのも良いですし、感染症の知識をバックグランドとして他の領域で活躍するのも良いですので、少しでも興味がある方や、キャリアに悩んでいる学生さんや研修医の方はまずはご一報ください。皆さんと一緒に働ける日を楽しみにしております

今後の展望

臨床

1)院内コンサルテーション

院内感染症を中心に不明熱・不明炎症まで、感染制御部と役割分担をしながら公式に年間300例程度のコンサルテーションを受けています。非公式な相談を合わせればおそらくこの倍程度はあるのではと思います。救命救急センターを擁する県内唯一の大学病院ですので、幅広い感染症に対するコンサルテーションを請け負っています。

2)AST/ICT

感染制御部と共同して院内の抗菌薬適正使用、感染症診療支援を行っているほか、院内感染対策にも力を入れています。新型コロナウイルス感染症対策においても中心的な役割を果たしています。

3)特殊外来

週に3回(月、水、木)に感染症内科外来を行っています。原則予約診療となりますが、疾患の特殊性に応じて予約外にも対応しています。定期外来は梅毒などの性感染症から、新型コロナウイルス感染症のフォローまで多岐にわたります。骨感染症などの慢性感染症に対しても積極的に外来診療に取り組んでいます。現在HIVは血液内科外来での診療が主体ですが、今後は血液内科とも共同して診療を展開していく予定です。また、少しずつですが、渡航・ワクチン外来も整備しつつあります。前もって連絡頂ければ、渡航前のワクチン相談はもちろん、通常の任意接種のワクチンにも対応しています。

4)独自診療

2021年12月の段階では感染症内科としての独自のベッドを有しておらず、生理学的徴候が不安定な感染症については救命救急センターと、ある程度落ち着いた感染症については総合診療部と共同して診療を展開していますが、近い将来感染症内科としての入院診療へも対応していく予定で、実際にこの準備を開始しています。

教育

学生に対する感染症学の講義を担当しているほか、2021年度からは臨床実習への担当も開始しました。将来的には研修医の受け入れも開始し、幅広く感染症の知識を持った医療人を育成していきたいと考えています。また、生涯教育にも熱心に取り組んでおり、MiMID(Mie Master courses of Infectious Diseases:感染症診療に係る基礎的勉強会)を定期開催しているほか、科長のライフワークである救急集中治療・総合診療・感染症の3分野融合を目指し、各分野のスーパースターを招聘した研究会も計画、運営しています。感染症内科のメンバーだけではなく、感染症に興味をもつ医療人へ広く門戸を開放していきたいと考えています。

研究

当診療科は化学療法に関連する好中球減少症のみならず、リンパ系疾患や治療に起因する細胞性免疫不全、さらには液性免疫不全、HIV感染症など、多彩な免疫不全宿主に対して診療を行っています。必然的に多数の重症かつ特殊な感染症診療を日常的に担っています。
このような臨床で得られた経験や、そこから得られた疑問を解決するべく関連部署と連携して研究活動を行っています。感染症診療および研究は横断的で幅広い知識が必要になり、やりがいのある分野です。感染症専門医を目指す臨床医が、この分野で専門医資格と学位を取得することも可能です。学内外を問わず幅広く門戸を開放し、希望に合わせた研究活動を支援しています。
また、個々の症例を大切にすることを重視しています。得られた経験を後世に残していくことは重要な医師の使命であり、症例報告であったとしても学会発表や論文作成を支援しています。これまでにたくさんの経験をさせていただいた患者さんたちへ報いるため、原著論文だけではなく、多くの症例報告活動を行ってきました。
さらに、感染症のように各科横断的な知識が必要な分野では、人材交流が重要だと考えています。国内外の学会・研究会への積極的な参加、および他施設との技術交流など積極的な交流をこれからも支援していきたいと考えています。