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たか子の部屋

このコラムは緩和ケアチーム医師のつぶやきの場所です。臨床現場で出会った素敵なエピソードを紹介したり、日々の緩和ケアの実践で気づいたこと、考えたことをつづります。

症状緩和するための薬剤~新しい使い方とQOL向上への寄与

2022210日にジクトルテープ®発売講演会@三重があり、講演させていただく機会があったので、改めて消炎鎮痛剤であるNSAIDsのことをいろいろと調べていました。

 

どんなお話をさせてもらおうかなと考えていた時、雑誌『緩和ケア』321号の巻頭言に出会いました。聖隷三方ヶ原病院の森田達也先生が書かれたものです。

そこには、「緩和医療はエビデンスと臨床経験のせめぎあう領域であり、あるエビデンスがあったからといってそれが普遍的に(対象となった患者集団以外のすべての患者に)適応できるとは限りません。逆に、臨床経験からそうかなと思っていることも、本当のところそうでもないということが後でわかることもあります。そんななか、特に新薬が出現したときなど、『この薬は○○がいいですよ!』という専門家の意見や製薬会社のマーケティングに臨床家はさらされます。」とありました。

そう、そう、そうなのよと思いました。新しい薬が出てどうしたものか、日々症状緩和のためどう使えばいいんだろうかとあれこれ悩む私に、「知識のupdateが新しい関わり方を切り拓き、患者さんのQOL向上に寄与できるんだ!」という方向を改めて示してくれたからです。

 

エビデンスに基づいた医療

医療現場では、さまざまな医療行為がエビデンスにもとづいて検討されていきます。
エビデンス(evidence)は、最良の研究により人間集団から疫学的方法で得られた一般論です。例えば、特定条件をそろえた患者集団において、ある医療行為の効果を比較するといった研究で得られた結果というわけです。対象となる患者さんの状況が研究における患者さんの条件と異なれば、同じ結果が得られるとは限らないのです。緩和ケアの分野では、他の分野に比べてこのエビデンスの蓄積が不十分なので、基盤となる科学的根拠が確認されていなかったりするのです。「じゃあ、やみくもに麻薬使ってるってこと?」と心配しないでください。きちんとじゃあ、こんなふうにしたらというお勧めが専門家たちによって練られており、ガイドラインとして示されています。

医療現場で捉え方に誤解があるのではと思うことがあります。
Evidence-based medicineEBM)とは、臨床家の勘や経験をすべて否定し、科学的な根拠(エビデンス)があることのみを行う医療といったとらえ方をしている医療者が少なくありません。当然、第1に最良の研究によるエビデンスが必要であり根拠となります。それだけではなく、第2に、貴重な個々の臨床的な経験の積み重ね(に基づく)熟練・技能・直観的判断力、 第3に、患者のそれぞれの希望・意向・価値観、さらに第4として状況(circumstances);患者の状況の個別性・多様性と医療を行う場の4つの要素を重ね合わせていくのがEBMです。臨床経験を積むこと、患者との対話により意向や価値観を知ること、そして、今ここで可能な医療とは何かを判断していくことになります。ここまでくると、なにができるかはおのずと見えてくるのです。

 

医療用麻薬の使用は目的ではなくQOL向上のための手段

病名が同じでも患者さんごとに自覚症状は異なりますし、許容できる症状や副作用が異なるので、症状緩和のための薬剤の選択や調整方法は異なってきます。例えば、がん疼痛により食欲がおちる、眠れない、気力がでないなど日常生活に支障が生じたため、疼痛緩和のために医療用麻薬を使い始めたとしましょう。痛みスケールの数字が下がったとすると、医療者は満足を感じるかもしれませんが、患者さんによってはこんなに薬が増えて大丈夫か・・・と不安を強くしているかもしれません。また、まだまだ痛みが残っている状態だとすると、医療者はもっとオピオイドを増やすべきと考えるかもしれませんが、患者としてはこれ以上増えると眠気が強くなって仕事に差し障るのでいやだと思っているかもしれません。

 

鎮痛剤の使用は、痛みが和らぐことによって一人一人の患者さんによりよい生活をしてもらうための手段です。痛みをとることや鎮痛剤を使うことそのものが目的とならないように、日々の緩和ケアをお届けしたいと思います。一緩和ケア医として、鎮痛剤の知識のupdateをしてエビデンスに精通し、疼痛緩和のための技術に熟練することに精進したいと心から思います。

 

安楽島から坂手島を望む

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