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たか子の部屋

このコラムは緩和ケアチーム医師のつぶやきの場所です。臨床現場で出会った素敵なエピソードを紹介したり、日々の緩和ケアの実践で気づいたこと、考えたことをつづります。

「あたりまえ」を失って思うこと

長年親しんできた三重大学医学部附属病院緩和ケアセンターのホームページをリニューアルしました。自分たちの取り組んでいる緩和ケアをもっともっとみなさんに知ってもらえる場所がほしいと思ったことがきっかけです。

緩和ケアセンターでは、院内緩和ケアチーム活動以外に、院外の方も対象とした緩和ケアに関する研修やセミナーを数多く企画し開催してきました。その活動の多くがCOVID-19感染症拡大という未曽有の事態により中止・延期となったことは、単なる行事の消滅ではないことに気づきました。活動を通して現場同士の顔の見える関係が築けること、その関係が患者さんやご家族への緩和ケアの連携につながることといった臨床現場での診療・ケアの基盤そのものを揺るがす事態だったのです。

ウイルス流行によってはじめて「日常」が破られ、あたりまえはあたりまではないと気づかされました。今回の新型コロナウィルス感染症という未曽有の事態を体験して、自分自身の中で「○○を大事と思っていたけどそう思わなくなっている」「△△に意欲を傾ける気になれない」などとこれまでと違って感じることがあります。仕事の面でもプライベートな面でもこのような変化を自覚します。自律を封じられ、他者とも分断されて、この先の将来も見通せない事態となり、自分の存在と意味を支えていたものを失った、自分にとってスピリチュアルペインが湧出している事態なのだと自覚しました。
いかに自分のスピリチュアルケアをしようか…。感染の収束までまだまだ時間がかかるだろうし、もっと困難な事態が待ち受けているかもしれない。元通りはない。背負った脅威とともに新しい自分を構築していこう。失った関係も多いけど、大事な(たぶん、相手も大事と思ってくれてると信じたい)仲間もいる。新しく打ち込めるものもみつかりそうだ。ともに歩む人と苦難を分かち合い支え支えられるなら、なんとか新しい将来の可能性が開くことができるだろう、そのおかげで今を生き抜いて行けるだろうと思える。

COVID-19感染拡大は、患者さんとご家族にとって、またその診療・ケアにあたる医療従事者にとってもこれまでに類を見ないつらさ・苦痛をうみだすものです。「苦痛を和らげる」「生活の質を向上する」緩和ケアを専門とするものとしては、「今、ここで」の相手へのケアとなるよう、診療・ケアをお届けしたいと考えている。
みなさまもどうかご自愛くださいませ。

大学病院外来棟からの夕景

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