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あきらめないがん治療

〜 三重大学腎泌尿器外科における代表的な泌尿器科がんの治療 〜

前立腺癌

限局性前立腺癌(転移のない前立腺癌)に対して三重大学では根治的治療として、
1)ロボット支援下前立腺全摘除術、2)放射線療法(強度変調放射線療法:IMRT)、3)小線源療法の3つの代表的な治療を提供することができます。
ロボット支援下手術の成績を下記に記します。
(術後、理論的にはPSAは0になりますが、20~30%の患者さんで残念ながら術後PSAが上昇してきます。全身のどこかに前立腺癌細胞が残っていることになります。これをPSA再発といい、術後の再発様式はほとんどがPSA再発です。)

低リスク、中間リスク症例の成績は良好ですが、高リスク・超高リスク症例は手術だけでなく放射線治療や薬物療法による集学的治療が必要になってきます。ご自身がどのリスクに属するかなど詳しいことは外来主治医にご相談ください。また、ロボット支援下手術は単に前立腺癌の治療のみならず、生活の質をできるだけ落とさないように勃起神経の温存や術後の尿失禁の早期改善のための工夫も行っております。

なお、高リスク症例に対しては全身MRIを術前に施行して、通常のCTや骨シンチで転移巣がわからないのに全身MRIで転移が見つかれば、ロボット支援下手術後に根治を目指して転移巣に放射線療法を施行する臨床試験(STARCAP試験:UMIN000044546)を行っています。参加ご希望の方は外来主治医にご相談ください。

強度変調放射線療法(IMRT)はホルモン治療を4~6ヶ月程度先行してから行います。前立腺周囲にある膀胱や直腸への照射量を減らしつつ、前立腺へ十分な量の放射線を照射することができるようになっています。参考までに照射野と線量分布(放射線の当たっている範囲の放射線照射量)を下記に記します。直腸や膀胱へ当たっている放射線量が少ないことがわかります。(色が薄い)

転移性前立腺癌に対しては全身治療としてホルモン治療(最近は積極的に新規ホルモ
ン剤を併用するようにしています)を行いますが、症例によっては前立腺への放射線療法を併用することもあります。また転移巣への放射線療法も早期から行うこともあります。薬物療法としては化学療法や遺伝子診断に基づいた治療も行っています。

前立腺癌遺伝子検査について

転移性前立腺癌のうち12~17%にDNA修復遺伝子などの生殖細胞系列の病的遺伝子異常(親から引き継いだ遺伝子異常)を認めるとの報告があり、BRCA2の病的変異が最も多く、BRCA1と合わせると約6%になると言われています。転移性前立腺癌では体細胞系列のBRCA1またはBRCA2の病的変異(癌細胞内でおきた遺伝子異常)が生殖細胞系列と同程度あるとも言われています。BRCA1およびBRCA2に病的変異のある転移性去勢抵抗性前立腺癌の症例にPARP阻害剤が保険収載されました。当院でも前立腺癌の組織や血液を用いて遺伝子検査をのべ51例(組織と血液を2回検査している方は7例)に施行しています。そのうち9例でBRCA1またはBRCA2の病的変異が見つかっております(2022年1月現在)。

この検査はゲノム診療科・病理部と協力して施行しております。ご希望の方は外来主治医にご相談ください。
なお、BRCA1およびBRCA2は遺伝性乳癌卵巣癌の原因遺伝子のひとつとされています。ご家族内に乳癌・卵巣癌・膵臓癌・前立腺癌の方が複数おられる方は、是非ご相談ください。

膀胱癌

膀胱癌には表在性膀胱癌と浸潤性膀胱癌があります。前者の多くは生命に関わることは少ないものの膀胱内に再発しやすい特徴があります。一方、後者は放置すると転移し、生命に関わることがあります。
表在性膀胱癌の基本的な治療は経尿道的内視鏡手術と膀胱内薬剤注入療法です。当科では確実に膀胱内の腫瘍を切除するために天然アミノ酸の一種である5-アミノレブリン酸(5-ALA)を術前に投与して、通常の内視鏡ではわかりにくい病変も探し出して切除するようにしています(Sugino et al. Acta Urol Japonica 2020)。(下図、黄色で○をつけたところに腫瘍があります)

浸潤性膀胱癌に対してロボット支援下膀胱全摘除術をおこなっています。また膀胱全摘除術後の尿路変向は可能な限り、おなかの中で腸管の処理・尿路変向をしています(ロボット手術欄をご参照ください)。

浸潤性膀胱癌の患者さんに対して膀胱全摘除術を行う時には患者さんの全身状態を良好な状態にすることが大切であることが我々の研究でわかっています(図、腰椎3番目の高さの腸腰筋の筋肉の質をCTで評価しています。筋肉の質が患者さんの予後に関係しています。Sugino et al. Cancers 2021)食事による栄養状態の改善やリハビリ運動などを積極的に取り入れる努力をしています。

転移のある膀胱癌に対しては化学療法に加え、PD-1ないしPD-L1阻害剤を使った免疫療法も積極的に行っています。また新しく保険適応になりました抗体複合薬(抗癌剤を膀胱癌に集中的に与える治療)も始めました。

腎細胞癌

7cm以下の腎細胞癌に対しては可能な限りロボット支援下腎部分切除術(RAPN)を施行しています。当院では年間60例程度のRAPNを行っています(詳細はロボット手術の項をご参照ください)。RAPNの成績の評価の一つの目安である、阻血時間(25分以内)、合併症なし、断端陰性の3つの項目(Trifecta)の達成率を当院初期90例でまとめた結果を示します(図)。難易度の高い症例では阻血時間が長くなる傾向がありTrifectaの達成率が低下しますが、他施設の結果と遜色ない結果だと思います。

RAPNの制癌率を示します(図)。
2例の再発例を経験していますが、いずれもSarcomatoid(肉腫様)組織を含む腎細胞癌でした。

また腎臓の血管が流入してくる場所にある腫瘍(腎門部)は難易度が高いですが、この腎門部腫瘍に対してもRAPNを安全に施行しています(下図)。

転移性腎細胞癌に対しては分子標的薬やPD-1・PD-L1等を用いた免疫療法を積極的に導入しています。免疫療法は様々な有害事象もありますので院内各科と協力して対応しています(図、院内マニュアル)。

その一方、転移があっても非常によく反応して、原発巣である腎摘除術を行い、良好な経過をたどるケースもあります(下図)。外来担当医とよくご相談ください。