血管腫·血管奇形

Case
Introduction

はじめに

1846年の世界初のエーテルを用いた全身麻酔によって、頸部の静脈奇形の方の手術がMassachusetts General Hospitalで行われたのは、医学史の中でも最も有名な話の一つです。それから150年以上経過した現在、圧迫療法や、薬剤による硬化療法治療・手術治療を組み合わせて治療を行っています。

診断方法

今までの経過をお尋ねしたうえで、診察を行いエコーやMRIの検査を追加して総合的に診断します。

治療をするかどうか

良性腫瘍のため治療するべきかどうかの判断が非常に難しい病気です。血管奇形の多くは徐々に拡大し、それは退縮することはないのですが、癌になったりすることもありません。多くはご相談しながら治療するかどうかも含めて決めています。血管奇形の治療と血管腫の治療も種類によって違いますので順を追ってお話させていただきます。

血管奇形・血管腫の外科的治療方針の決定方法

まず外科的治療が基本的な治療方針ですが、血管奇形の種類によって異なります。

動静脈奇形の場合

動脈と静脈が様々なところで直接つながってしまった状態です。出血すると命にかかわることもあります。
塞栓術などで治療することもありますが、もし切除可能であれば完全切除を目指します。

安易に部分切除を行うと逆に急性増悪を引き起こすことがあり、結果その後の治療が困難となることもあるため十分お話をしながら治療を決定します。切除した後、皮膚を縫い寄せられない場合は、皮弁といわれる血行のある皮膚と皮下脂肪を移動させてきて被覆します。その場合手術が大掛かりになることもあります。

静脈奇形の場合

柔らかい静脈の塊が余剰にある状態です。動静脈奇形のような命に関わるような出血はまれです。内部に石が形成されたり、腫れて痛みが出る(血栓性静脈炎)方もいます。動静脈奇形と違い、場合によっては部分切除することもあります。目立つ場所の場合、硬化療法を第一に選択することが多いです。

硬化療法の場合、注入によって1週間ほど腫れその後1-2ヵ月で効果が出てきます。ただし治療によって静脈奇形自体が無くなるわけではないため、数年後に徐々に大きくなって、再度硬化療法を行うことになる場合があります。

三重大学では硬化療法はIVR科と連携をとりながら計画・施行いたします。

毛細血管奇形の場合

表層にかさぶたのようなものを形成することがあります。細かい血管のために硬化療法では治療が難しく、レーザー治療や部分切除することがあります。再出現した場合はまた治療することで対応は可能です。

三重大学ではレーザー治療は皮膚科と連携をとりながら計画・施行いたします。

リンパ管奇形の場合

リンパ管が大きな袋(マクロシスト)や無数の小さな袋(マイクロシスト)を作って存在します。大きな袋の場合には硬化療法を第一におこないますが、小さな袋の場合にはこの硬化療法がうまく効かないことも多いため、切除が可能であれば切除を行います。

また、乳び腹水や乳び胸水などを伴うようなお腹の中に広がるリンパ管奇形の場合には切除以外にもマイクロサージェリーの技術を用いた特殊な治療法も行なっております。

血管腫の場合

生まれて間もない赤ちゃんにできることが多いのが血管腫です。生まれたときにできていることもあります。体中どこにでもできる可能性があります。

一般的には生まれてすぐに皮膚表面に赤い斑ができてきて、そのうちにすこし鮮やかな赤色に盛り上がってきます。6か月ぐらいまで大きくなっていきます。この盛り上がってくる時期には内服治療やレーザー治療にて増大を抑える治療を行うことがあります。

その後は徐々に鮮やかだった赤みがややくすんだ色に変わってきて大きさも縮んできます。その後多くの場合小学校低学年ごろに色が落ち着いていきます。周りの皮膚とおなじようになることもありますが、やや茶色の質感が違う皮膚が残ることもあります。この場合、落ち着いてから皮膚の質感の違うところを切除することもあります。

三重大学では内服治療は小児科と、レーザー治療は皮膚科と連携をとりながら計画・施行いたします。

こんな時に切除治療を考えます

症状

多くの場合、疼痛や出血といった症状が出現した場合に手術を考えます。また顔面などの表に出る部位については、特に症状がなくても整容的な面から治療をご相談しながら決めることがあります。
動静脈奇形などの場合は、重症になると心不全の症状が出現することがあります。心不全の症状が出始める前にご本人とご相談させていただくことがあります。
また動静脈奇形などで心不全徴候が現れかけるような場合にも、他の治療法を含めて必要に応じて外科的切除も考慮することがあります。

治療によって得られる利益が、失われるものや機能を上回るか?

血管奇形血管腫が筋肉内に広がっており、他では代償できないような 手などの機能的に重要な部位に及んでいる場合は、その機能に影響する可能性を考慮します。
または治療によって命にかかわるということもあるため、よくご相談してから治療を行うようにしております。

拡大傾向のスピードは?

拡大するスピードは人によって異なります。拡大のスピードが早い方は早めの治療をお勧めすることがあります。逆にゆっくりで症状がない場合には、治療は行わず経過を見るだけのこともあります。

部位別

顔や手足、胸部や腹部といった部位によって、治療するかどうかの方針が変わります。

おわりに

血管奇形の治療方針は患者さまごとに違いますので、よくご相談したうえでご本人にとって最良の方法を検討しながら治療に当たっています。
また下記のウェブページより血管腫血管奇形のガイドラインを無料でダウンロードできます。難しい専門用語もありますが、かなり詳しい説明があります。

http://www.marianna-u.ac.jp/va/files/vascular%20anomalies%20practice%20guideline%202017.pdf

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