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研修医・医学生のみなさんへ

海外留学体験記

問山 裕二

Translational Research in Baylor Medical Center at Dallas

アメリカ テキサス / 2011年4月~2013年3月

私は2001年4月に三重大学大学院に入学し,潰瘍性大腸炎の上皮粘膜に特異的に高,低発現する遺伝子をMicroarrayにて網羅的に解析することで,この疾患の病因となる遺伝子の同定を行いました.また,抗癌剤(5-FUとタキサン系抗癌剤)の投与シークエンスに依存ずる抗癌剤の効果増強のメカニズムや,放射線治療の増感剤である抗癌剤(タキサン系抗癌剤)の至的濃度の決定と増感効果のメカニズムに関して研究を行いました.

大学院を卒業後は,大腸癌の外科的治療(手術)の研鑽をつみながら,消化器癌(大腸癌,胃癌)の腫瘍組織中の遺伝子発現や治療前の血清中のサイトカインを用いて,治療後の患者の予後を規定するマーカー探索を行ってきました.その頃,大腸癌,潰瘍性大腸炎の癌化のメカニズムはゲノムの変異のみではなく,環境や炎症により誘発されるエピゲノムの関与がかなりのウェイトを占めることが知られはじめ,このエピゲノムを用いた癌診断,癌治療方針の選別に関する研究に興味を持ちました.

そこで,当科 楠正人教授のご助言のもと,エピゲノム研究で有名なBaylor Medical Center at Dallas, TX, USAに留学の申し出をさせていただいたところ,留学を許可していただき,2011年4月より渡米し待望のアメリカ研究生活が始まりました.私が働いていた研究室のLab headは,遺伝性大腸癌の1つであるリンチ症候群の世界的権威であり,アメリカ消化器病学会のPresidentを務めたRichard C Boland教授でした.また消化器癌におけるエピゲノム,Botanical DrugのChemopreventionを専門として研究をしてきたAjay Goel先生はポスドクの研究統括者であり,この指導者達のもとで長そうで本当に短じかく感じた(2011.4-2013.3)2年間を,消化器癌におけるエピゲノムを用いたbiomarker探索と臨床応用に関する研究に没頭することができました.

Lab member

このラボの特徴は,研究の着想,実験計画,研究の備品の調達,実験,データの整理,解析,論文作成,特許申請,論文ならびに学会発表の全て自ら行うことができ,研究におけるイロハをすべて理解できる環境を提供していただけるところでした.また自らの研究データはすべて公開する前に特許作成することができ,その後作成した論文はすべてFirst Authorになれるシステムでした.さらに他のポスドクの研究の援助をすることで,Co-authorにもしていただけるため,ポスドク同氏は非常に仲がよく,研究に対するディスカッションも真剣で,motivationはすごく高いところに置くことができました.

何を研究したいかなど,留学の目的をどこに設定するかで,門戸をたたく大学,研究施設はそれぞれ異なるとは思いますが,そこを十分に詰めて留学を準備することは,その後の研究生活を左右する重要なファクターになると思います.また,自分がしたい研究が医学にいかに貢献できるものなのかを常に認識して,研究計画を立てることができれば,苦しい時でも研究の楽しさ,そしてその意義をいつでも思い出すことができると思います.

また一方で,この2年間のアメリカ生活は,家族の重要性を再認識することができ,さらに一段と団結力が強固になった感じがします.私は2年間で1週間程度の長期休暇を6回とることができ,アメリカ各地を安価で旅行することができました.写真では見たことがある国定(国立)公園,遺跡,観光名所を目の当たりにするたびに,今まで経験したことのない衝撃が頭の先から足元にまで貫く感じを受け(なぜか泣けてくる),言葉にすることができない雄大な自然を体感できたことは,この留学のもう一つの財産だと思います.

最後に,海外留学をすることで,日本では絶対に感じることができなかった異国の文化,多国籍の人々の考え方と触れ合うことができ,今まで築かれてきた私の考え方が再構築された感じがします.新たに医師になられる皆様も貴重な経験ができる留学をぜひ自分の人生の1つの選択肢として考えてもらえればと思います.