研修医・医学生のみなさんへ
海外留学体験記
志村 匡信
Baylor Scott & White Research Institute
私は2017年4月から2019年3月までの2年間、米国・テキサス州・ダラスのBaylor Scott&White Research Instituteに研究留学させて頂きました。
同研究施設には、問山裕二教授ならびに奥川喜永先生が同研究室に研究留学をされていた施設であり、今回縁あって研究留学をさせていただきました。


Principal Investigator (P.I.)を務めるAjay Goel教授は、主にがんバイオマーカー領域において、当講座以外にも本邦や世界中の消化器外科学講座と共同研究をおこなっています。数多くの高名な論文に名を連ねてきた研究者であり、一度に多数のプロジェクトや論文投稿を管理されている凄腕の方であります。私は2年間の留学期間で、消化管癌の診断・予後バイオマーカープロジェクトならびに、人体に毒性の低い植物/生薬由来のbotanical compoundの抗腫瘍効果に関するプロジェクトを軸に、研究活動に取り組ませて頂きました。
私の博士号の学位論文のテーマがこれらの研究領域とは大きく異なり、プロジェクトに関連する実験経験が日本では皆無に近い状態であったため、留学期間の前半は大変辛い日々を過ごしました。研究プロジェクトは基本的に自らで立案して遂行する方針で、Goel教授には各プロセスにおいて論理性のみならず迅速な対応を求められます。このような厳しい環境での研究継続を断念し、研究室を退職していった研究者も複数おられました。私もプロジェクトが思うように進まず精神的にも不安定となり、「自分がこのまま研究室に在籍してもGoel教授や関係者に迷惑をかけるだけだから研究室を退職させて下さい」と2017年11月にGoel教授に相談しました。Goel教授からは「君の出来が悪いのは私も困っているが、勤勉な事だけは長所だ。道半ばでの中途退職は良くない。君のビザの期限が切れる日まで頑張りなさい」という言葉を頂きました。当講座では問山教授、奥川先生が同研究室において大きな功績を積み重ねてきた経緯もあり、その教室員である私を不出来ながら大事にしたいと考えるGoel教授の心遣いが心にしみて涙が出そうでした。

2017年度の1年間で多くのメンバーが入れ替わり、留学期間の後半の2018年度では、私も古株メンバーになった事もあり、実験サポートなども含めて複数のプロジェクトに関与させて頂く事ができました。2019年3月でビザの期限切れを迎えて研究室を満期退職させて頂いた日には心からの達成感を感じる事ができました。留学期間中に論文の採用までには至れず、帰国して本学に復職してからも(2021年時点でも)論文の修正投稿に時間を費やしている状態ですが、Annals of Surgery、Carcinogenesis、Gastroenterologyなどの雑誌に筆頭著者、筆頭共著者、共著者として名を連ねさせて頂いた事は生涯の財産であると感謝しております。
Goel教授、問山教授、奥川先生、私の不在期間中の欠員状態のなか臨床業務に携わられた医局員の先生と、関係者皆様にこの場をお借りして感謝を申し上げます。今後、米国での経験をもとに私自身日々精進し、微力ながら後進の研究や論文作成のサポートに積極的に関与していきたいと思います。