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研修医・医学生のみなさんへ

海外留学体験記

小池 勇樹

トロント留学記 The Hospital for Sick children (通称Sickkids Hospital)

カナダ トロント / 2015年4月~2017年3月

楠教授,内田主任のご好意と、医局員の皆様のご協力により,2015年4月~2017年3月までの2年間、カナダ、トロント大学附属のThe Hospital for Sick children (通称Sickkids Hospital)へ、研究留学をさせて頂きました。トロントに入ってからは、まず現地の不動産屋のドアを叩いて、なるべく安く家族で住めるコンドを1週間以内に探し出すという、かなりチャレンジャーなことをしました。そのおかげもあって、「拙い日本人英語でも、何とか無理やりにでも自分の意見を相手に伝えよう!」という度胸がついたように思います。

Sickkids HospitalとそのResearch Tower。さらに二光子レーザー顕微鏡の実験をしていた別の研究施設の外観

さて、留学中は、Professor Agostino Pierro [元イギリスのGreat Ormond Street Hospital for Childrenの小児外科教授で、以前に当科の大竹先生がイギリス留学中にお世話になった方です]の元で、基礎研究をメインで勉強をさせて頂きました。このラボは新生児消化管疾患の中で最も致死率の高い「壊死性腸炎」を研究のメインテーマとしております。留学前にPierro教授と日本で面談する機会があったのですが、その際には自身のこれまでの研究で培った二光子レーザー顕微鏡を用いた生体内臓器観察の手法を、壊死性腸炎モデルにおいて応用できるのではないか? ということを提案しておりました。そのため、留学直後から、2光子レーザー顕微鏡を持つ同じ施設内の他のラボにその使用をお願いして、動物実験施設には、自分の実験プロトコールを承認してもらうことから開始しました。

主なラボメンバー達
(前列右から2番目がピエロ教授、その隣が私です)

しかし、Sickkids hospital附属の動物実験施設は、「当動物実験施設外における一切の動物生体実験を禁ずる」というルールをどうしても覆してくれませんでした。留学直後から、いきなり自分がやろうとしていたメインの研究テーマを−80℃のフリーザーに凍結保存された気分になってしまいました。しかし、新生児マウスの、さらに「壊死性腸炎モデルマウス腸管の生体内観察とその解析」という誰も挑戦したことのない魅力的な研究テーマを安易に諦める気にはどうしてもなりませんでした。それ以降は、代替となる研究テーマを新たに始めると共に、二光子レーザー顕微鏡を保有しつつ、動物実験舎が生体実験を許容してくれそうなSickkids hospital以外の研究施設を探し回る日々が続きました。幸いその条件を満たす施設を見つけることができましたが、そちらでの動物実験の申請が受理され、メインの研究をスタートした時には、すでに留学より1年が経過していました。

今思うと、この抑圧された最初の1年のおかげで、やりたいことが山積みでしたので、残りの1年では、より多くの実験データを生み出すことができたように思います。また2光子レーザー顕微鏡による疾患モデルマウスを用いた生体内臓器観察ができるという研究手法は画期的だということで、Sickkids内外において、他のラボとのコラボレーション研究も数多くさせて頂く幸運に恵まれました。

留学2年目には様々な小児外科関連の国際学会(ヨーロッパ小児外科学会EUPSA, 世界小児外科学会WOFAPS, カナダ小児外科学会CAPS, アメリカ小児科学会AAPなど)にも参加することができ、大変貴重な経験を数多くさせて頂きました。また帰国後には、この2年間での実験データを元に、論文をいくつか投稿し、引き続きカナダ留学中と同等もしくはそれ以上の実験ができるよう善処する予定です。

イタリア ミラノで開催されたヨーロッパ小児外科学会での発表(左)
学会後にイタリアの医大生と共に接待したロサンゼルス小児病院 小児外科教授Henri Ford夫妻(右)

最後に、このような貴重な機会を与えて下さいました楠教授・内田主任を始め,不在中の多忙な業務を担って頂いた当科スタッフの皆様に、深く御礼を申し上げます。