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AYA世代について

はじめに

 近年、小児がん(15歳未満)の治療成績は向上し、小児がん患者の生存率は70%を超えるようになってきています。しかし、小児と成人のはざまにある思春期・若年成人(15歳から39歳、adolescent and young adult、以下AYA世代)のがんについてはあまり注目されてきませんでした。欧米では1990年代より2000年代とAYA世代のがんについて報告されてきており、AYA世代のがん患者の5年生存率が、小児や成人のそれに比べて劣ることが明らかになりました。
 また、この時期は心身の成長・発達だけでなく、ライフステージからみても就学、周囲の人との関係構築、就労、恋愛、結婚、出産などの社会生活を営む上でとても大切な時期といえます。
 AYA世代の生存率向上に向けて、その特殊背景を考慮し、個々のニーズに応じた医療体制の構築が重要と考えます。

AYA世代に発症するがんの特徴

AYA世代のがんは、小児期とがんの種類の内訳が異なります。小児期のがんでは、急性白血病やリンパ腫、脳腫瘍が多いのですが、15歳以上のAYA世代のがんでは、高校生では骨腫瘍、それ以降では、甲状腺がん、子宮頸がん、乳がん、が目立つようになってきています。

  1位 2位 3位 4位 5位
0~14歳
(小児)
白血病
[38%]
脳腫瘍
[16%]
リンパ腫
[9%]
胚細胞腫瘍・
性腺腫瘍
[8%]
神経芽腫
[7%]
15~19歳 白血病
[24%]
胚細胞腫瘍・
性腺腫瘍
[17%]
リンパ腫
[13%]
脳腫瘍
[10%]
骨腫瘍
[9%]
20~29歳 胚細胞腫瘍・
性腺腫瘍
[17%]
甲状腺がん
[12%]
白血病
[11%]
リンパ腫
[10%]
子宮頸がん
[9%]
30~39歳 女性乳がん
[22%]
子宮頸がん
[13%]
胚細胞腫瘍・
性腺腫瘍
[8%]
甲状腺がん
[8%]
大腸がん
[8%]

※国立がん研究センター資料より カッコ内は年代ごとの全がんに占める割合

AYA世代のがん患者さんが抱える問題
治療成績不良 治療方針の未確立、病気の速い進行、受診の遅延
精神的ストレス 病気の不安、治療の不安、入院のストレス、副作用によるストレス(脱毛、嘔気など)
家族の問題 親子関係、同胞との関係
社会の問題 学校の問題、友人との関係、仕事の問題、経済的問題
将来への不安 就学、就労、恋愛、結婚、出産、再発や晩期合併症の不安


当院の取り組み

治療選択肢の提示

AYA世代のがんは、その数の少なさからも標準治療が確立されていないことがあります。しばしば治療困難なときがあるため、治療選択肢は限られてしまいます。当院では、そのような患者さんに対して、臨床試験や企業治験などにより、新しい治療薬の提供をしています。

チーム医療

医師(成人科も含め)、看護師、薬剤師、チャイルドライフスペシャリスト、トータルケアセンター、緩和ケアチーム、臨床心理士、リハビリテーション、栄養士、ソーシャルワーカー など多職種で、患者さんにとってよりよい治療を提供しています。

Teens Room、Teens会

思春期は、アイデンティティを確立する時期であることから、長期入院により、年齢に応じた発達を遂げるための時間を持つことが困難となります。同年代の仲間が集い、学校の休み時間のように賑やかにする、または静かに語り合う場所として Teens Room を提供しています。入院中の患者さんが、思春期らしく、親から離れ、自立を促され、心理・社会的成長発達を遂げられるよう、また闘病生活のストレスを発散できるように定期的にTeens会をひらいています。

学習支援

長期入院により大切な学習機会を損ねる傾向があります。そのため、一部高校生に対しては、原籍校との遠隔授業(単位認定有り)を提供したり、養護学校教師によるベッドサイドでの授業を行ったり、三重大学生ボランティアによるマンツーマン指導を行うこともあります。

妊孕性温存

がんの治療を行うことにより、『妊孕性(妊娠する力)』が失われる可能性があります。そのため、がん治療を行う前に、精子保存や卵子、卵巣保存など行うことにより妊孕性を温存することができます。当院でも産婦人科と協力して積極的に妊孕性温存しています。

退院後の相談窓口

退院後は長期フォローアップ外来(30~60分/回)で病気のこと、晩期合併症や就学・就労・結婚、妊娠、出産など幅広く相談を受けています。なかには小児がん長期経験者による会(ひとと樹)に参加することにより、小児がん経験や不安の共有、自分の病気の学習、小児がんキャンプを支えることもできます。