顔面神経麻痺

Case
Introduction

顔面神経麻痺とは

笑ったり口や目を閉じたりする顔面の筋肉を顔面表情筋といいます。
この顔面表情筋と呼ばれる筋肉には20ほどの種類があります。その筋肉を動くように指令を送っているのが顔面神経といわれる神経で、顔の左右の耳の下から枝分かれしながらそれぞれの筋肉につながっています。

この神経が何らかの原因で麻痺をおこすと、おでこや眉毛 瞼や口などの顔の動きができなくなります。これによって口から飲み物や食べ物がこぼれ落ちてしまったり、瞼が閉じられなくて目に炎症を起こして痛くなったりします。

人によっては見た目が気になって、他の人に会いたくなくなり外食なども控えるようになったり、人前で笑うのを躊躇するようになったりして精神的にも落ち込んでしまうこともあります。

顔面神経麻痺の原因

腫瘍切除のため顔面神経の経路を部分的に切除しなければならない場合や、ウィルスが原因のBell 麻痺やRamsey-Hunt症候群のようなヘルペスや水痘などによるものでステロイドのような薬物治療でも治癒しない場合、外傷によるものがあります。

顔面神経麻痺の程度は人によって軽い人から完全に動かせない重症の人まで様々です。

治療時期

神経の経路が残っている多くの場合、半年ほど待つことで徐々に回復することもあります。
ただし完全に断裂し欠損のある場合や麻痺の程度が強い人は、できるだけ早期に外科的な治療を受けたほうがいいこともあります。

顔面神経が麻痺すると、動いていた顔面の筋肉は脳からの指令がないため徐々に筋肉が細く萎縮するようになり、半年ほどすると筋肉細胞自体が変性して脂肪や線維組織に置き換わることがあります。このため、治療時期を逸すると治療の選択肢が狭まることになります。

もし完全麻痺になられた方で、麻痺が回復する可能性が低い場合には、できるだけ半年~1年以内に外科的治療を開始することが良い場合があります。手術方法は様々ありますが、症状や程度、麻痺になってからの期間に合わせて手術を選択して行います。

まだ回復を待つつもりでも、回復しなかった場合にどうしたらいいか将来のことを悩んでいるようでしたら、早めに形成外科にお尋ねください。手術しなくてよいことになれば最善ですが、もし手術をしなければならなくなった場合でも経過を見極め、最適な時期に最善の方法をご提案させていただきます。

治療法

薬物療法と併せて、神経を修復する手術や、神経修復が難しい部位にたいしては自然な表情や左右のバランスを取り戻すような治療を追加していきます。
その治療によりできるだけ患者さんが、顔面麻痺によってできなかった、 ごくありふれた日常生活を気兼ねなくおくることができるよう、できる限り丁寧に低侵襲で最先端の技術を用いて治療を行っています。

麻痺になったばかりの方(麻痺になってから半年~1年以内)

顔面表情筋がまだ保たれていると判断した時には、神経を手術することで顔面の筋肉機能を回復する治療を目指します。

神経移行術

顔面にある顔面神経以外の神経で咬む筋肉や舌を動かす神経などに、顔面神経をつなぐことで、筋肉の機能の一部を回復させるお手伝いをします。

神経移植術

神経を他の機能障害が出にくい場所から移動させてきて、足りない部分へ移植します。

顔面交叉神経移植術

元の部分が傷害をうけた顔面神経麻痺の場合、顔面の麻痺していない側の顔面神経の一部に麻痺している側の顔面神経をつなぐことで、表情を回復する方法です。この手術には約15㎝の長い神経が必要となるため下肢から機能障害の出にくい神経を採取して、麻痺している側と麻痺していない側を橋渡しする手術を顕微鏡下に行ないます。

麻痺後少し時間が経っている方(麻痺後1年以上)

麻痺になられてからの経過が長く(1年以上)、筋肉の動きが回復できていない方は、 神経をつなぐだけでは不十分なことが多いため、筋肉などの組織移植が必要となります。

血管付き神経筋肉移植

顔面の麻痺した筋肉が変性して動きが無くなっているような場合には、身体の別の部位(大腿や側胸部など)から、取ってもあまり影響のない筋肉を血管や神経とともに移動させて、麻痺している顔面の皮膚の下に移植します。主に頬の部分に移植します。半年ぐらいすると筋肉が徐々に動き始めます。

手術はマイクロサージャリーと呼ばれる技術を要するためやや大がかりで2週間ほど入院が必要になります。筋肉機能の回復は術後6-12カ月になります。

眼を閉じるための治療

目が閉じられなくて痛みが出るなどしてお困りの方には、筋膜移植や下瞼の端を上瞼の端に縫い付ける等を行い、筋膜や軟骨を使って閉眼をできるようにします。ほかに側頭筋という筋肉を移動させることで目が閉じられるようにし、洗顔の際に石鹸が目に入ったりすることを防止します。

眉毛を上げる治療

顔が歪んで見える原因の一つが、左右どちらかの麻痺していない側に比べて“麻痺している側の眉毛や瞼が下がってしまっている”ことに依る場合です。これを改善させる方法は、眉毛の上の部分の皮膚を切除する方法や、糸や筋膜で眉毛を吊り上げる方法などを行います。

口のゆがみを取る治療

口唇周囲の麻痺として、特に下唇が動きにくいことがあります。筋膜を用いる、または健側の筋肉の一部を切離することで左右のバランスをよくする治療を行います。

異常共同運動や顔のひきつれに対する治療

麻痺が回復してきたのに、口を動かすと勝手にまぶたが閉じてしまうような症状や、お顔がひきつれてしまうなどの症状でお困りの場合には、ボトックスや筋部分切除、神経切断等の症状を軽減する治療を行います。

将来へ向けての取り組み

現在三重大学形成外科では、いままでの治療では回復できないような、細やかな表情を超早期に回復するための治療法を開発するべく神経研究に取り組んでいます。将来的に顔面神経麻痺でお悩みのすべての方が、笑顔で暮らせるように日々研究を行っております。

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