研究

RESEARCH

Basic research基礎研究

三重大学皮膚科学教室では皮膚に関連する疾患に対して幅広く診療・治療、そして臨床に直結する基礎研究を行っています。皮膚アレルギーの解明・療法の開発、日本紅斑熱の解明と疫学調査、膠原病の臨床研究、皮膚悪性腫瘍の研究・診療など専門分野のエキスパートが集まり、あらゆる皮膚関連疾患を治療できる大学病院を目指し日々研究に研鑽しています。
知的好奇心に溢れた4グループの研究を紹介します。

アレルギー疾患の病態解明と
新規治療法の開発

当科が開発した皮膚炎モデルを用いて、アトピー性皮膚炎の発症により、経時的にどのサイトカインが鍵になるか研究をしています。またこれまでは皮膚病変は皮膚にのみ影響を及ぼすとされていましたが、実は内臓の種々の臓器に甚大な影響が生じることを解明しています。よって皮膚疾患はきちんと治療するべきであるという啓蒙活動も行っております 。

研究内容

これまでアトピー性皮膚炎や乾癬などの皮膚炎は、ただ単に皮膚にのみ症状が生じるものと考えられてきましたが、じつは内臓にも大きな影響を与える事が分かってきました。当科では皮膚炎が持続するために生じる内臓の現象と、その治療法を長年研究してきました。A) 皮膚にcaspase-1を過剰発現させた炎症性皮膚炎モデルマウスは8週齢から顔面を中心として皮膚炎が発症し、掻痒を伴い年余にわたり症状が続きます。このモデルはアトピー性皮膚炎のモデルマウスとして周知されています。B) このマウスを検討すると、血管に病変が見つかりました。大動脈は正常マウスに比べ狭窄し、末梢の血圧低下や血流の不全を伴い動脈硬化症の状態でした。C) 脳底動脈を調べると全ての部位で狭窄を認め、PETによる脳の機能の検討では、グルコース代謝の低下を認めました。D) 最近の統計では尋常性乾癬や重症のアトピー性皮膚炎の患者さんでは、脳血管・心血管疾患が多く合併するとの報告があります。難治性の皮膚炎が続くと、皮膚病変から産生された炎症性サイトカインが流血中に入り、血管内皮に障害を生じさせ、脳・心血管障害を起こす可能性を考え inflammatory skin marchの概念を提唱しました。この理論よりは皮膚炎は決して放置するものではなく、適切に治療を行うのが望ましいという結論とりました。現在は医療が進歩して、高価ではあるが効力の強い薬剤が使用できる様になっています。

E) その後の研究にて、アトピー性皮膚炎モデルマウスでは内臓脂肪の燃焼を認めました。脂肪組織には炎症細胞の浸潤が増加し、脂肪細胞自身はくすんだ様に小型化・不整となっていました。F) 内臓の臓器は肥大し、アミロイドの沈着を伴っていました。炎症に伴う全身性アミロイドーシスの一症状でした。G) 骨は骨皮質の菲薄化と髄質が粗で、いわゆる骨粗鬆症の状態です。これまで膠原病やリウマチなどでは骨粗鬆症の合併が多いと認識されていましたが、難治性皮膚疾患でも合併が多い事の証明となりました。H) 更には皮膚炎マウスの精巣から精子を精製すると正常のマウスに比べ精子数の減少と動きの低下を認めました。I)そして、唾液の分泌の低下しており、口腔内はドライマウスの状態となり、歯周病の発症の誘因となっていることも見いだしました。以上の様に重症の皮膚炎は種々の臓器の障害を併発する可能性があるため、適切なコントロールが必要であると考えています。

日本紅斑熱、ダニ媒介感染症、
特殊感染症の
病態解明と疫学調査

マダニの捕獲。マダニ保有の病原体の調査。日本紅斑熱多発地域の住民のマダニ媒介感染症の抗体保有調査やサイトカインの測定。マダニ媒介感染症発症時のサイトカインの推移の比較。皮膚感染症の新たな免疫学的感染機序の解明。

研究内容

我々のグループはマダニ媒介感染症の罹患患者とマダニ両方面で、病原体の検出率の比較調査と各種病原体の抗体保有等の疫学的関連の調査および日本紅斑熱患者のサイトカイン等の免疫学的研究を行っています。
伊勢志摩地域を中心に三重県内で広範囲にマダニを捕獲し、野生の鹿に付着したマダニも調査します。
自然の森林の環境に癒されパワースポットに行く気分になれます。
また日本紅斑熱患者の急性期と回復期でどのようなサイトカインの放出の変化が生じるか調べ、診断と治療に役立てることを研究しています。
また住民のマダニ媒介感染症の抗体価の測定や推移を調査します。
難渋な感染症が生じた場合、そのメカニズムに迫り発症機序や治療に役立つ研究も行っています。

膠原病における、
炎症と凝固線溶系との
関連に関する研究

我々のグループは、膠原病において、炎症と凝固線溶系の関連を中心に研究しております。膠原病の診療において、皮膚症状をみる皮膚科医はきわめて重要な立場にありますが、当科は、膠原病の患者さんも昔から多く診療してきた背景があります。難病に指定されている強皮症や皮膚筋炎などでの厚生労働省研究班との関わりの歴史も古く、オリジナリティーの高い、臨床的に重要な知見を発信することを心がけています。

研究内容

様々な皮膚疾患の皮膚症状の存在自体が、凝固線溶系の活性化、血栓症の一因となりうる可能性が多数報告されています。ステロイドによって静脈血栓症リスクは上昇するとされますが、自己免疫疾患では発症早期で静脈血栓症をより生じやすいという知見を我々は過去に報告しました。膠原病である強皮症や皮膚筋炎において、皮膚症状の中でどのような性状の皮膚症状が全身的な凝固異常に与える影響が大きいか、皮膚症状の経過と凝固異常の経過の相関等を明らかにすること等に主にスポットを当て研究してきました。過去の報告としては、強皮症での凝固線溶系と炎症、強皮症の線溶系マーカーの異常、皮膚筋炎の皮膚症状と凝固線溶の関連、膠原病や抗リン脂質抗体症候群での血管内皮障害、膠原病の血管内皮細胞のマーカーや凝固機能検査の臨床的意義、播種性血管内凝固などのテーマに関して、いずれも原著論文として報告しております。

皮膚外科、
皮膚科形成外科として
患者さまを治療

当科は、以前より三重県内の皮膚腫瘍(特に悪性腫瘍)、熱傷、毛細血管奇形・太田母斑等レーザー対象症例などを多く治療してきております。また、国立がん研究センターや形成外科へ国内留学経験のある医師が在籍しており、最先端の皮膚悪性腫瘍の集学的治療、整容機能面を考慮した治療を行っております。

研究内容

皮膚外科(特に皮膚腫瘍)は皮膚科、形成外科いずれの科も扱う。例えば皮膚腫瘍の治療について、皮膚科はダーモスコピー、生検、病理組織学的検査を行い診断し腫瘍の特性などを考えて手術を行う。他方、形成外科は診断も考慮するが皮膚科ほどではなく、解剖・機能・形態を重視し手術を行う。当科では、前述のように皮膚悪性腫瘍のスペシャリストを養成する機関・形成外科で研修を積んだ医師が在籍しているため、当科専攻医は他施設にない皮膚外科研修ができ、患者さんは皮膚外科治療において最良な治療を受けることができる。当科は、国立がん研究センター主導のメラノーマに対する臨床研究の協力病院となっているため、多くの臨床研究に参加している。また、レーザー医学会専門医が在籍しており、血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドラインの作成クループにも参加している。当科では、皮膚科医が皮膚外科に必要な形成外科的手技の習得ができるよう皮膚科専攻医のための皮膚科手術研修カリキュラムの確立を目指し臨床研究をすすめている。方法は、デルファイ変法という手法を用いて皮膚科専攻医向けの研修カリキュラムのタスクを決定する。皮膚外科専門医師が、各タスクに対する実技を含めたレクチャー動画を作成、皮膚外科専門医師が定めた各タスクの達成目標を設定後、それに向けて専攻医がトレーニングを行う。トレーニング後、達成度を客観的に評価し、最終的にこの研修カリキュラムが皮膚科専攻医に与える教育的効果を評価する。

Clinical research臨床研究

臨床研究とは、病気の予防・診断・治療などの医療手段について、その有効性を確かめたり治療方法の優劣を見極めたり、また治療方法の改善や、病態の理解を目的として実施される研究です。
当科では患者さんにお役に立てる臨床研究を施行しております。附属病院の皮膚科は年間外来患者数16,000人、入院患者数320人で最先端、且つ医局員全員が三重県内の皮膚科診療を担っており、卒後臨床研修施設としても最適です。

主な研究報告

研究内容

膠原病、関節リウマチは特にSLEをはじめとして血栓症のハイリスク群であり、これらの診療で血栓症を疑った場合には、画像検査や生理検査の他、Dダイマー や可溶性フィブリンの測定がしばしば行われます。膠原病における血栓症に関するDダイマーなどについては、血栓症の診断における有用性について検討します。

対象

三重大学医学部附属病院血液内科又は皮膚科を1994/1/1から2016/4/30までに受診し、Dダイマーや可溶性フィブリンを測定した症例を対象としました。

方法

カルテ情報の調査を行いカルテから、膠原病の種類、年齢、性別、血栓症の有無 と種類、Dダイマー、可溶性フィブリン、FDP、APTT、血小板数、補体価、C3、C4、抗リン脂質抗体などについて調査します。この研究で対象となる方に診察、治療、追加検査などは行いません。

研究対象者の利益または不利益

治療上施行が必要であった検査結果を用いた研究で、本研究に参加することによる患者さんの利益はありません。不利益として個人情報の漏洩の危険性がありますが十二分に注意しております。この研究で得られた結果を医学雑誌に発表することで医学の進歩に寄与したいと考えております。当然ながらこのような場合には対象となる方が特定できないようにし、個人情報などプライバシーに関するものが公表されることは一切ありません。この発表を行うに当たり、対象となる方が費用を負担することもありませんし、また謝礼もありません。

本研究についてのお問い合わせ

2017年3月31日までに三重大学医学部皮膚科、波部 幸司までお知らせください。
電話:059-232-1111(内線5403)

研究内容

マダニに刺されたことにより、リケッチアという病原体が体内に侵入し発熱と紅斑が生じる日本紅斑熱に罹患する可能性があります。早期診断と早期治療が必要な重篤な病気です。現在の早期診断方法はPCR法という検査にて、紅斑から病原体であるリケッチアの存在を確認することが有用です。日本紅斑熱に罹患したことが強く疑われる患者さんを対象に、手掌部と体幹部の紅斑でどちらがよりリケッチアの検出率が高いか、また日本紅斑熱の紅斑がどのように生じているかを調べることを目的としています。また採取した紅斑を半割し一方を日本紅斑熱の診断のためにPCR検査に用い、もう一方を病態把握のために病理診断を行うため、同じような症状が生じる薬疹などや日本紅斑熱以外の病気であった場合の補助診断にもなります。

対象

日本紅斑熱が強く疑われたかた (ただし未成年の場合は保護者の同意がいります。) 患者背景を診療記録において確認できるかた
手掌紅斑と全身に紅斑を認めるかた
研究参加に関して文書による同意が得られたかた

方法

日本紅斑熱の診断のために手掌部と体幹部の紅斑から皮膚生検を行い、皮膚生検で採取した皮膚の半分をPCR検査に、もう半分で病理検査を施行します。もし日本紅斑熱でなかった場合、この病理検査を参考に治療をさせていただきます。
適切な紅斑採取部位を推測するために、また紅斑が生じる原因を評価するためにダーモスコピーという拡大鏡にて皮疹を確認し記録します。

研究対象者の利益または不利益

期待される利益(効果):
今後、日本紅斑熱の診断に適した紅斑部がわかり、日本紅斑熱の診断率上昇が期待されます。またなぜ紅斑ができるのかを推測することができ、同じような紅斑ができる疾患と早期に鑑別できる可能性があります。
起こる可能性のある危険(副作用など):
通常の診療時に施行する皮膚生検法と同じ手技と器具であり、合併症として局所麻酔薬や消毒薬等のアレルギー、出血、神経障害、二次感染等の可能性はあり得えますが、本研究にてこれらの有害事象の発症の可能性が高くなることはありません。

本研究についてのお問い合わせ

2018年3月31日までに三重大学医学部皮膚科、近藤 誠までお知らせください。
電話: 059-232-1111