総合診療医を目指そうと思っている君たちへ

三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座家庭医療学分野
教授 竹村 洋典(たけむら ようすけ)

総合診療医を目指そうと思っている君たちへ

人間は、いずれかならず死ぬ。君たちも実は1年後、交通事故で死ぬ運命にあるのかもしれない。であれば、時間は残されていない。何をするか?おいしいものを食べる?旅行をする?私ならば、それらをどんなにしても満たされないであろう。では私なら何をする?きっと後世に残せる何かを必死になって作ろうと努力するに違いない。死という非連続な現象に連続性を見出すために後世への橋渡しをしてくれる何かを見出すために・・・。そのためにある人は絵を描くかもしれない。またある人は小説を書くかもしれない。子どもや孫と接する時間を多くする人もいるであろう。残された時間で取り組んできた事業を成し遂げられるように努力する人も多いに違いない。医師であれば、できるだけ多くの人に健康で幸福な日々を送ってもらえるよう、その人々の心に残ってくれるように日々医療に邁進するかもしれない。自分のこの世での存在の証として。これらのことは君たちとは関係のない他人の状況を言っているのではない。まさしくいずれ必ず死を迎える君たちが現在おかれている状況なのである。

私は医師になって本当によかったと思っている。どんなに医師としての生活が辛くてもそう思う。医師として行うことのすべてが、後世への橋渡しになっているから。たとえ死に至った患者がいても、天国で手を広げて出迎えてくれると信じている。そのような医療をいつも行っていきたいと思っている。医師は本当にすばらしい職業である。とりわけ、私にとって「総合診療」は命をかけて取り組める医療と考えている。単に様々な包括的な医療を提供するだけではなく、患者の立場に降り立って患者を診ることが出来る。総合診療は、住民の風を背後から受けて前に進む。住民の風を背後から受けていないと前に進めない。このように総合診療が人々のニーズを原点におきながら進む医療であるゆえに、後世により多くの安心や幸福を残せる医療と思っている。そのような医療を専門に出来て心からうれしく思っている。無邪気といわれるかもしれない。しかしこんな人間がもっともっといてもいいとも思う。

夢と情熱が私のキーワード。総合診療が人々を幸福に出来るというのは、単なる夢なのかもしれない。でもその夢を信じて常に情熱を持って前に進んで生きていきたい。生きている証を常に感じつつ力強く前に進んでいきたい。この総合診療を私は君たちと一緒になって追い求めたいと心から願っている。