はじめに

第二内科消化器グループは消化器内視鏡を中心とした消化管および胆膵疾患を対象に診療と研究を行っています。消化管および胆膵疾患で、消化器内科医としての知識と技術の向上を目指しています。

研究面では日々の診療に直結する臨床研究を中心に行っており、第二内科の血液・腫瘍グループと協力し基礎的な研究にも励んでいます。個々の興味や適性に応じて研究を行うと同時に消化器内視鏡診療においても消化管、胆膵の区別なくローテートし、それぞれの知識と技術を身につけることを原則としています。

近年の内視鏡診断、治療についてはその技術の発展により、カバーする領域が大きく広がっており、高度な技術をもった消化器専門医が必要とされています。当グループでは専門医を目指す医師が修練でき、また診療と研究が両立できるように配慮した環境を提供するようにしています。

診療の紹介

対象疾患

  • 全消化管疾患
  • 胆道
  • 膵臓疾患

消化管疾患

当グループは上部消化管において拡大内視鏡を早期に導入し、酢酸撒布拡大観察法を確立した実績があります。
診断技術の向上を図るため、定期的なカンファレンスを行い、スクリーニングから精査内視鏡まで幅広い内視鏡検査を行うことができるよう優れた診断学を身につけた医師の育成を目指しています。内視鏡の挿入法から観察法、画像強調観察による拡大内視鏡診断を上下部内視鏡検査においてビギナーからエキスパートまでの段階的な技術支援を行い、早期の技術向上が得られることを約束します。
内視鏡治療でも三重大学関連病院においてどこよりも先に内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を始め、高いレベルでの治療を行っています。また小腸内視鏡(バルーン内視鏡、カプセル内視鏡)においても、同様に早期より導入し小腸疾患の診断および治療を行っています。

胆膵疾患

診療対象は胆道(肝内・肝門部・総胆管、胆嚢、十二指腸乳頭部)、膵臓がんなどの悪性疾患から、急性・慢性膵炎、自己免疫性膵炎、総胆管結石など良性疾患まで多岐に渡ります。

胆道とは肝臓から産生される胆汁が十二指腸に至るまでの全経路を意味します。胆道の主な機能は、胆汁の貯留と十二指腸への移送です。
また、膵臓は胃の背面に存在し、十二指腸にくっついて脾臓に接しています。膵臓は大きく分けて2つの役割を果たしています。食物の消化を助ける膵液の産生(外分泌)と、インスリンやグルカゴンなど血糖値の調節に必要なホルモンの産生(内分泌)です。

これらの領域は、胃や大腸のように直接内視鏡で見ることが難しい臓器であり、何かしらの病気が疑われた時には、まずCT、MRI、腹部エコーなど体の外からみる検査で大まかな情報を得ます。そこで更に詳しく調べることが必要と判断した場合、精密検査として超音波内視鏡検査(EUS)や内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)などを行います。EUSは内視鏡の先端に高解像度の超音波が付いていて目的の病変の近くから観察が可能であり、病変のより詳細な情報を得ることが可能です。

ERCPは内視鏡を使って胆管や膵管を造影する検査で、口から十二指腸まで内視鏡を入れ、その先端から膵管・胆管の中にカテーテル(細い管)を挿入し、カテーテルから造影剤を入れて膵管や胆管のX線写真をとります。
同時に膵液や胆汁の採取や病変部から組織や細胞を生検することで、確定診断に役立ちます。
当グループでは、がんの区別が困難な病変をEUSで観察しながら生検針で穿刺して組織や細胞を採取する、超音波内視鏡下穿刺生検(EUS-FNAB)についても三重県下でいち早く導入し、積極的に行っています。これによって手術や抗がん剤治療の前に正確な病理診断を得ることができ、確定診断を行ってから治療方針を決定するようにしています。
EUS-FNABの対象は、胃粘膜下腫瘍や膵がんなどの消化器疾患だけでなく、従来であれば開胸生検が必要な肺がんのリンパ節転移や縦隔腫瘍、またリンパ腫などの血液疾患に対してもEUS-FNABを行っており、患者さまのお体に負担をかけずに病理診断が出来るようになっています。
また、EUS-FNABの穿刺技術を応用した膵嚢胞ドレナージ術や急性膵炎後の感染膿瘍に対するドレナージ術も行っています。

これらの検査には熟練した技術が必要となってきますが、若い先生にも私達の指導のもとに積極的に検査や処置を行ってもらい、幅広い胆道、膵臓疾患に対応できるエキスパートの育成に力を入れています。
また内視鏡的処置だけでなく、切除不能の胆道、膵臓悪性疾患に対する化学療法についても、腫瘍内科と連携し最新のエビデンスに基づいた治療を行っています。

膵がんにおいては、診断のみならず、肝胆膵外科と共同でEUS-FNABの検体を用いて局所進行膵癌に対する術前化学放射線療法の効果予測可能マーカーの開発に取り組んでおります。

研究の紹介

以下の研究を行っています。

画像強調観察および酢酸撒布を併用した拡大内視鏡観察による早期胃癌の 形態診断学の研究 

消化器内視鏡で初めて酢酸を用いたのは1998年のGuelrudら報告が最初です。日本では、われわれ三重大学第二内科消化器グループが初めて行いました。円柱上皮に酢酸を散布すると、半透明であった粘膜は白色化して光を透過しなくなるため、粘膜表面の観察が容易になります。
この作用を利用した内視鏡観察が酢酸エンハンス内視鏡です。散布する酢酸濃度は1.5%を使用していて、食用の酢酸(約4.5%)を3倍希釈することで作製しています。

1.5%酢酸を散布すると数秒で粘膜は白色化し、光は白色化した粘膜表面のみで反射するため表面の凹凸が認識しやすくなり、拡大内視鏡を用いることで表面パターンの詳細な観察が容易となります。正常胃底腺粘膜は規則的な円形のパターンを呈します。
一方、胃癌の周囲には慢性炎症による腸上皮化生を認めることが多く、この場合は柔毛状や脳回転様のパターンが混在した特徴的な表面模様を呈します。早期胃癌ではこれらとは異なり、不整なパターンや表面模様の破壊されたパターンを呈します。 これらのパターンは5つに分類されます。

 

Type 1
規則的な円形のパターン

Type 2
スリット状のパターン

Type 3
絨毛状や脳回状のパターン

Type 4
Type 1-3が不整になったパターン

Type 5
構造が破壊されたパターン

 

胃癌はtype4および5、腺腫はtype2のパターンを呈します。

また、表面パターンに注目することにより、生検前の腺腫や癌の診断、癌の分化度の診断、分化型胃癌の範囲診断の正確となります。さらに、診断が難しい早期胃癌や腺腫の内視鏡治療後遺残の診断に対しても有用です。 

Narrow band imaging と呼ばれる特殊光の利用で拡大内視鏡観察が非常に容易となりますが、この技術に酢酸エンハンス内視鏡を併用することでさらに表面パターンの認識が容易となります。さらに、分化型早期胃癌の境界認識も容易となります。

早期胃癌と同様に不整な表面パターンを呈する。扁平上皮に覆われていない部位は境界明瞭となります。

NBI

NBI+酢酸

 

現在、早期癌に対する内視鏡治療は、内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection; ESD)が主に用いられる用になりましたが、正確な範囲診断の元に行うことが重要です。
早期胃癌やBarrett食道腺癌の境界診断は困難な場合が多く、NBIや酢酸エンハンス内視鏡を用いることで正確な範囲診断が可能で、一括切除率の向上が期待できます。実際のESD施行時には、まず色素内視鏡やNBI観察下にてマーキングを行い、その後マーキングの正誤についてNBI併用酢酸エンハンス内視鏡にて確認しています。

参考文献

Tanaka K, Toyoda H, Kadowaki S, et al. Features of early gastric cancer and gastric adenoma by enhanced-magnification endoscopy. J Gastroenterol. 2006 Apr;41(4):332-8.

田中 匡介, 門脇 重憲, 濱田 康彦ら Endoscopic Submucosal Dissection にお ける酢酸併用拡大内視鏡の有用性. Gastroenterological Endoscopy 49 巻 1 号 Page12-20(2007.01)

Tanaka K, Toyoda H, Kadowaki S, et al. Surface pattern classification by enhanced-magnification endoscopy for identifying early gastric cancers. Gastrointest Endosc. 2008 Mar;67(3):430-7.

Kadowaki S, Tanaka K, Toyoda H, et al. Ease of early gastric cancer demarcation recognition: a comparison of four magnifying endoscopy methods. J Gastroenterol Hepatol. 2009 Oct;24(10):1625-30.

Toyoda H, Tanaka K, Hamada Y, et al. Magnifying endoscopic view of an early gastric cancer using acetic acid and narrow-band imaging system. Dig Endosc 2006;18 (Suppl. 1):S41–S43.

Toyoda H, Tanaka K, Hamada Y, et al. Endoscopic submucosal dissection for early gastric cancer using magnifying endoscopy with a combination of narrow band imaging and acetic acid. Dig Endosc 2008;20:150–153.

Kosaka R, Tanaka K, Tano S, et al. Magnifying endoscopy for diagnosis of residual/local recurrent gastric neoplasms after previous endoscopic treatment. Surg Endosc. 2012 Aug;26(8):2299-305.

Tanaka K, Toyoda H, Jaramillo E. Magnifying endoscopy in combination with Narrow-band imaging and acetic acid instillation in the diagnosis of Barrett’s esophagus. Tajiri H, Nakajima M, Yasuda K(editor). New challenges in gastrointestinal endoscopy. Springer 2008:pp 153-60.

画像強調観察および酢酸撒布を併用した拡大内視鏡観察による胃 MALT リンパ腫の形態診断学の研究

近年、拡大内視鏡は早期胃癌の診断に使用されるようになっています。また、一方で Narrow Band Imaging(NBI)などの画像強調の方法を組み合わせることでより診断精度を高めています。胃 mucosa-associated lymphoid tissue(MALT) リンパ腫は通常内視鏡で観察すると孤立した萎縮様粘膜や多発びらんなど様々な所見を認める一方で,その拡大内視鏡所見に関する報告は少数です。
当科では NBI を併用した拡大内視鏡およびNBIに酢酸散布を併用した拡大内視鏡を用いて治療前後の胃 MALT リンパ腫の所見について検討しています。

治療前の孤立した萎縮様粘膜を認め、胃 MALT リンパ腫を疑う部位(画像 1a) をNBI併用の拡大内視鏡で観察すると胃の腺管構造が消失し異常な血管が観察されました(画像 1b)。
NBI に酢酸散布を併用した拡大内視鏡で観察しても胃の腺管構造が消失していました(画像 1c)。同部位を生検すると胃 MALT リンパ腫 を病理学的に認めました。
 


1a

1b

1c

治療後、通常の内視鏡では治療前と同様に孤立した萎縮様粘膜にみられる部位(画像 2a)でもNBI併用の拡大内視鏡で観察すると,胃の腺管構造が回復していることが観察された部位では生検でも胃 MALT リンパ腫を認めませんでした。
一方で治療前と同様に胃の腺管構造が回復せずに異常な血管が観察されました(画像 2b)が、酢酸散布を併用した拡大内視鏡で観察すると胃の腺管構造が回復していることが観察された部位(画像 2c)では生検でも胃 MLAT リンパ腫を病理学的に認めませんでした。
以上から治療前のみならず治療後にも胃 MALT リンパ腫の遺残部位を同定することに拡大内視鏡、特にNBIに加え酢酸散布が重要であると考え、さらに検討を行っています。
 


2a

2b

2c

細径大腸内視鏡スコープに関する被検患者苦痛度評価のランダム比較試験 (UMIN 試験 ID:UMIN000010350)

 

近年食生活の欧米化や高齢化社会の進行により本邦でも大腸癌が増加し、数年後には癌罹患率の第1位になると予測されています。
この大腸癌に対する早期発見と治療の有用なツールとして、大腸内視鏡検査がありますが、検査による患者の苦痛もあり、検査に対する恐怖感から一般的に受け入れられていると言い難いのが現状です。特に女性は筋骨格系の違いや骨盤内臓器手術の既往が多いなどの理由により、男性に比べ盲腸到達が難しく検査施行時の苦痛度が大きいため、挿入困難因子のひとつとの報告があります。

これらの理由により大腸内視鏡スコープは硬度可変、細径化などの挿入性向上を目的に様々な改良が加えられています。新型細径大腸内視鏡検査用スコープPCF-PQ260は標準大腸内視鏡スコープよりも細径化され、さらに高伝達挿入部、受動湾曲といった従来のスコープにない新機能も搭載しているため、患者苦痛度の低下と挿入性の向上が期待できます。
この研究では女性患者に対する大腸内視鏡検査施行時において、この新型細径大腸内視鏡スコープPCF-PQ260と標準的大腸内視鏡スコープとのランダム化比較試験を行うことにより、女性患者に対する大腸内視鏡検査施行時におけるPCF-PQ260の有用性について明らかにすることを目的としています。

体外式超音波検査による消化管診断学への応用

従来、消化管病変においてはレントゲン、内視鏡診断が主流であり、体外式超音波診断は、管腔内ガスの存在が観察の妨げとなり十分な評価が困難であるとされていました。しかし最近では超音波診断装置の進歩や描出法の工夫により、十分な質的診断が得られるようになってきています。
第二内科消化器グループでは消化管腫瘍および炎症性腸疾患に対して体外式超音波検査を行い、診療に役立てています。

腫瘍性病変:胃癌や大腸癌などの消化管癌、特に進行癌においては周囲のリンパ節の評価や近接臓器への浸潤判定などが、体外式超音波で評価可能であり有用な検査であると考えられます。
例えば、進行胃癌、大腸癌の超音波像は、一般的に不整な低エコー腫瘤として描出されます。体外式超音波検査は、かなり高率に進行癌の診断が可能です。炎症性腸疾患:炎症性腸疾患は感染性腸炎、憩室炎、虚血性腸炎などの急性腸炎と、クローン病・潰瘍性大腸炎など慢性のものに分けられます。どちらも病変部の腸管壁の肥厚を伴いますが、病変の分布や壁肥厚の所見により鑑別が可能です。

EUS-FNAB 検体を用いた膵癌に対する化学療法の治療効果予測の研究

膵がんの患者さまを対象にEUS-FNABにて採取した膵癌の組織に対し、抗がん剤の治療効果に関連があると考えられる組織中の標的蛋白に対し、免疫染色学的定量を行います。治療開始後も経過を観察し、抗がん剤や放射線療法の効果と標的蛋白の発現に関連があるか評価します。手術を施行した切除組織においても同様に免疫染色を行い、EUS-FNAB検体との差を調べます。治療前の膵がんに対しEUS-FNAB検体を用いてバイオマーカーと期待される蛋白の発現を評価することにより、将来的にはテーラーメード治療にもつながることを期待しております。

留学

国内留学

  • 愛知県がんセンター中央病院
  • 国立がんセンター中央病院
  • 国立がんセンター東病院
  • 広島大学病院
  • 藤田保健衛生大学病院
  • 兵庫医科大学病院
  • 手稲渓仁会病院

国外留学

  • カロリンスカ医科大学(ストックホルム)
  • アイカーン医科大学(ニューヨーク)

消化器グループスタッフ紹介

助教(光学医療診療部副部長) 田中匡介(平成 8 年卒)
助教(光学医療診療部) 濱田康彦(平成 10 年卒)
助教(医学・看護学教育センター) 山田玲子(平成 14 年卒)
助教(臨床キャリア支援センター) 田野俊介(平成 15 年卒)
大学院生 坪井順哉(平成 16 年卒)
大学院生 黒田直起(平成 21 年卒)
大学院生 竹内俊文(平成 21 年卒)